週刊 奥の院

山内譲 『中世の港と海賊』 法政大学出版局 3200円+税
“海賊”というと、海の上のギャングというマイナスのイメージが強い。海の民、海上交通案内人・海運業と考えるべきか。
 本書では、古代からの物流の大動脈、瀬戸内海を舞台にしたさまざまな規模の“海賊”たちの活動を明らかにする。
 また、それぞれの拠点となった「天然の良港」=浦や港の景観にも着目する。大規模な入江や湾の他、小さな「室」や「池」、河川の河口部にある「水門(みなと)型」、島と島・島と陸に挟まれた狭い水路沿いに成立した「瀬戸・水道型」、河口に堆積した砂によって静かな海面となった「砂嘴・砂洲型」など。それぞれに長所がある。
  
 序章 ある禅僧の船旅――海賊の周辺
 第一章 東国武士、海賊になる――安芸国蒲苅と多賀谷氏
 第二章 南朝海上ネットワーク――伊予国忽那島と忽那氏
 第三章 港を支配する海賊――備後国鞆と因島村上氏
 第四章 港を要求する海賊――周防国秋穂と能島村上氏
 第五章 海賊の船 第六章 港から港町へ――安芸国瀬戸田と生口氏

 なぜ“海賊”を取り上げるのか? 

 たとえば海賊は、通行料や警固料の徴収をとおして海を行き来するさまざまな人々と交渉を持った。そのような点からすれば、海賊の存在を抜きにして海上交通史を語ることはできない。また、海賊のなかには、みずから物資の運搬にかかわり、地域経済にコミットしたものも少なくない。このような点からすれば、海賊を仲介させることによって海運史や商業史の別の側面が見えてくる可能性もある。さらに、海賊が戦国大名の水軍として各地の政治・軍事情勢に大きな影響を与えたことはすでによく知られているとおりである。

 著者は、1948年生まれ。愛媛県立高校教員を経て、松山大学教授。中世瀬戸内海地域史。
(平野)