週刊 奥の院 第86号+1の2

鶴見俊輔 『かくれ佛教』 ダイヤモンド社 1600円+税
第1章 私は悪人である  第2章 知識人の悪癖  第3章 良寛柳宗悦  第4章 末法の世に法然親鸞、橋本峰雄  第5章 日蓮創価学会他  第6章 寂滅為楽、河井隼雄、プラグマティズム  第7章 かくれ佛教徒

 村上紀史郎(『「バロン・サツマ」と呼ばれた男』藤原書店の著者)が4年6回にわたるインタビューをし、構成。
 

 私はキリスト教徒にも、マルクス主義者にもなったことがありません。マルクス主義キリスト教の一種じゃないかと私は思うんです。ウーマン・リブもそう。つまりキリスト教は、常に自分が正しいと思っていて、「あなたは間違っている」と言う。ところが、聖書を読んでも、イエスはそういうことは言っていない。(略)これは、キリスト教が神学を築き、国家権力と戦うのをやめて、国家宗教になってからできた性格のような気がする。ことに神学の体系をつくってから、そうなったんです。その中から、マルクス主義が出てきたから、その性格を受け継いでいる。スターリンなどは、元神学生だから、まさに権力との相似がある。ウーマン・リブも「あなたは間違っている」という傾向がある。私は女ではないからリブに加わることはできないけれど、全部そういうものに対しては警戒がありますね。

 
 母親に暴力をふるわれ「お前は悪人」と育てられた。小学校入学前に「張作霖爆殺事件」があり、父の書生たちが日本人の仕業と言っているのを聞いて「日本人は悪いやつ」と思うようになる。さらに、戦争を支持する宗教者たちが敗戦後平和を唱える、その姿はいやなものだった。
 学問を通して宗教のことを理解する。河合隼雄との対話やその著作から、「いろんな宗教的立場が混ざる日本人の宗教心」を受け入れる。名声や権力とは無縁の偉大な佛教者の存在も知る。また、内山節の著作で日本人の素朴な信仰を考える。
 

 この六十四年間、私は米国に入ったことはありませんが、入ったとして「あなたの宗教は」と問われたら、ためらわず《佛教》と答えられそうに思います。私の立場は《かくれキリシタン》にならっていうなら《かくれ佛教徒》といってもいいようです。

(平野)