週刊 奥の院 第82号+1の3

本は、これから

新書新刊 つづき
池澤夏樹編 『本は、これから』 岩波書店 820円+税
 編者の序から。
 

本は、これから……どうなるのか?
 いくつかの電子書籍が発売され、少しずつコンテンツも供給されるようになって、読書の風景が変わろうとしている。(略)
 ここ数十年で本作りは変わった。出版という言葉のとおりまだ「版」の概念はあるけれども、活字はもう無い。版を用意する本そのものよりずっと早く活字合金の重さから離脱して、物質への依存から離れて、電子化してしまった。
 執筆する方も紙を捨てた。僕はワープロで書いた最初の芥川賞作家だった。当初はフロッピーで入稿するということをしようとして、受ける側にその用意がなくて混乱したこともあった。以来、メモやノートや詩は紙にボールペンで書いても、原稿はすべてキーボードで書いてきた。
 しかし本そのものは今もって紙に印刷し、製本するという形で流通している。読者は本を手に持って、一ページずつ開いて読む。時にはぱらぱらとめくる。 
 それが変わろうとしている、と世間は言う。本当だろうか?
 今回、本についていろいろな考えが結集(けつじゅう)された。敢えて古い言葉を持ち出したが、これは本来は入滅後、釈迦の考えを弟子たちが編纂したことを言う。恐れ多いことだが、本というものの基本形を辿ればどの文明圏でも聖典に行き着く。その歴史は忘れないでおいた方がいい。
 それはともかく、ここに集められた文章全体の傾向を要約すれば、「それでも本は残るだろう」ということになる。あるいは「残ってほしい」や、「残すべきだ」や、「残すべく努力しよう」が付け加わると考えてよいかもしれない。
みんな本を愛している。

 池内了池上彰石川直樹、今福龍太、岩楯幸雄、上野千鶴子内田樹……、作家・学者だけではなく、書店・古書店・取次・装丁・編集など製作や流通現場の人たちを含む37人が寄稿。

 そして、文庫。
堀田善衛 『ゴヤ ? スペイン・光と影』 集英社 933円+税 高橋源一郎解説。
 1973〜76年、「朝日ジャーナル」連載。74〜77年、新潮社から全4巻で出版。94年、朝日文芸文庫で全4巻。いずれも品切れ。買っておかないと。
山口昌男 『内田魯庵山脈(上) 〈失われた日本人〉発掘』 岩波現代文庫 1360円+税 
(目次) 魯庵の水脈  1 その始まり 2 明治の逸人――西沢仙湖 3 野のアカデミー――集古会 4 和綴の雑誌――『集古』 5 蒐集家の筆頭――林岩樹 6 人類学の祖にして趣味の人――坪井正五郎 ……
 カバージャケットの解説から。
 

明治から昭和初期にかけて健筆をふるった内田魯庵(一八六八−一九二九)。彼はドストエフスキートルストイをいち早く日本に紹介したことで有名だが、他方趣味や遊びを共にした市井の自由人たちのネットワークの形成に大きな影響を与えた。本書は魯庵を手がかりに、近代日本の埋もれた知の水脈を発掘する歴史人類学の試みである。

 
 元版は2001年晶文社から刊行。6600円(本体)、品切れ。これも買っておくべきかと。
プルースト 『失われた時を求めて 1 スワン家のほうへ』 岩波文庫 900円+税 全14冊刊行。
 

ひとかけらのマドレーヌを口にしたとたん全身につたわる歓びの戦慄――記憶の水中花が開き浮かびあがる、サンザシの香り、鐘の音、コンブレーでの幼い日々。重層する世界の奥へいざなう、精確清新な訳文。プルーストが目にした当時の図版を多数収録。

 光文社文庫も9月から新訳(高遠弘美)で全14巻刊行中(現在第1巻のみ)。
 集英社文庫(鈴木道彦訳)全10巻、店頭在庫あり。
 筑摩文庫(井上究一郎訳)全10巻は店頭なし、注文可能。
(平野)昨日ユーストリームで放送の「黒沢比佐子さん追悼番組」、こちらで見ることができます。http://blog.livedoor.jp/hisako9618/
ただ、見づらい部分があるので、後日再編集してくださる。