週刊 奥の院

週刊 奥の院 第75号の1 
 今週小出しでしてみます。
◇夏葉社の名著復刊、第二弾
関口良雄 『昔日の客』 2,200円+税

正宗白鳥先生訪問紀」
 今年の二月だったか、私は正宗白鳥先生の初版本二十数冊を落札した。最初から自分の蔵書にするつもりだったので、値段の高い安いは苦にならず、入手出来たときの喜びは例えようもなかった。私はその夜枕元に正宗先生の本を積んで寝た。その故か一晩中先生の夢を見続けた。私は明治・大正・昭和を通じて正宗先生を最も尊敬し、その著書を愛読している。いや苦読しているのかも知れない。

 その本を持って正宗家を訪問する。夫人やご本人とのやり取りに、関口の緊張ぶりが伝わってくる。後日雑誌で正宗が語る。
「世間は広いもので、僕のものの愛読者が三人や五人はおるんだな。(略)このあいだ百冊僕のものを背負ってきたやつがいる。売りつけるつもりだったらしい」
「批評家なんか、ただでもらって読むんだから、愛読者かなんだかわかりゃしない。金を出すやつは、ばかにならんですよ。だれのものでも、金を出して読むと言うことはその人にそれだけの価値を認めているんですからね……」
 関口は何度も繰り返し読む。
「これは紛れもない自分の事だ」
「金を出して買う愛読者の一人として私も認められているのかと思うと、俄然嬉しくなって来た」
 関口は大正7年(1918)長野県飯田市生まれ。新聞配達をしながら中学に通うが、体を壊し中退。海軍に入隊するも病気で入院中に終戦。昭和28年(1953)大田区新井宿に古本店「山王書房」開業。『上林暁文学書目』『尾崎一雄文学書目』を刊行。俳句をたしなみ、45年(1970)には、上林、尾崎ら五人の句集『群島』を刊行した。52年(1977)8月結腸癌のため死去。生前から進んでいた本書は、翌年10月に完成した。随筆集『昔日の客』三茶書房。
 書名になった「昔日の客」とは、若き日の野呂邦暢のこと。ええ話です。ええ話ばっかりです。
 夏葉社はこちら。http://natsuhasha.com/

(平野)