週刊 奥の院

平凡

 週刊 奥の院 第55号 2010.5.14
◇出版
■塩澤幸登 『「平凡」物語  めざせ! 百万部 岩堀喜之助と雑誌「平凡」と清水達夫』茉莉花社(まつりかしゃ)発行 河出書房新社発売 3000円+税 
 本文736ページ、参考資料リスト10ページ+人名索引10ページ。この大著をちゃんと紹介できるわけがないので、興味があった「平凡」の名前の由来を中心に紹介。
 著者は1947年生まれ、70年「平凡出版」入社。雑誌編集者として『平凡』『週刊平凡』『平凡パンチ』『ターザン』など。02年から作家活動。09年『平凡パンチの時代』(同社)を出版。
 「平凡出版」という出版社が『平凡』『週刊平凡』『平凡パンチ』を出していたことを知っている人、『マガジンハウス』と結びつく人、今や少数派でしょう。
 私は昔、「平凡社」と「平凡出版」にどんな関係があったのだろう、無関係なのかと思い悩みはしなかったが、ちょっと気になっていた。「平凡出版」が「マガジンハウス」と社名を変えたのは83年。既に『アンアン』『ポパイ』『クロワッサン』は人気雑誌だった。『平凡』『週刊平凡』は87年休刊、『平凡パンチ』は88年に休刊。
 「平凡出版」の名称だ。岩堀と清水は元大政翼賛会の宣伝部員。1945年9月、岩堀は「陸軍画報社」中山から用紙の割り当て権を譲り受けた。「平凡社下中弥三郎に出版について教示を乞う。新雑誌のため、かつて下中が出していた「平凡」の名をもらう。10月、清水他翼賛会時代の同僚に声をかける。電報で「イッショニザッシヲヤラナイカ」と。「陸軍画報社」の部屋、資本金5万円で「凡人社」をスタートする。
11月雑誌『平凡』創刊、内容は文芸娯楽誌。部数1万部。第2号では黒澤明が登場し、またファッション関係者の座談会もある。3号では演劇・演芸色が強くなる。「濃淡古今名作濡れ場全集」(解説に性科学者の高橋鉄)という特集の号もある。『アンアン』のセックス特集の先祖がこんなところにいた。戦後の社会の変化に雑誌も変貌してゆく。この頃、中山や下中は戦争協力者として公職追放になっている。
『平凡』は48年から誌面を大型化し、芸能色をさらに強める。東宝映画、コロムビア・レコードと協力関係ができる。この頃4万部。翌年10万部、51年60万部、53年には100万部をこえる。文芸作品が歌になり、映画になり、今のメディアミックスのさきがけ、さらに読者ハガキで双方向的メッセージを取り入れていた。読者は10代後半から20代が70%、男女半々、郡部在住者が60%、男子の90%が勤労者。全国の働く若者が読んでいた。
54年「平凡出版」に。
同社と「平凡社」のなんとも言えないエピソードが語られている。後発が急速に発展したこと、元祖の老舗は倒産の憂き目。さらに後発が「平凡」の名称を捨てたことについてなど。伝聞情報なので、そういうこともあるかもしれない、くらいに考えるべきかも。
ひとつの出版社・雑誌の盛衰の歴史とともに戦後社会の動きも描く。
◇文庫から
乾くるみ『蒼林堂古書店へようこそ』徳間文庫 629円+税
古書店主・林雅賀(まさよし)、ミステリ評論家でもある。100円以上の売買をいた客には珈琲がふるまわれ、席が空いていれば何時間でも居座れる。日曜日に集まって来るのは、林の同級生バツイチサラリーマン、近所の電器店の息子(高1)――ふたりは100円200円で買った本をここで珈琲を飲みながら読み、終われば10円20円で買い戻してもらう――、それに小学校の女教師。買って、読んで、評論しあう。
バツイチが居酒屋で見かけた奇妙なグループの正体を推理する。秘密結社かテロ集団か? 謎解きすると、野外ゲーム愛好グループと判明。その話をきっかけに彼らも結社を結成。店の黒猫が会長だから、おどろおどろしい事件などない。お誕生会の消えたケーキの栗やら、小学生の作文の1行やらを推理合戦。
著者によるミステリ小説案内もある。
すみませんが、私はミステリ愛好家ではないので、著者の代表作『イニシエーション・ラブ』を読んでいない。読者によると、トリック自体が謎で、ネット上で謎解きをしている人もいるそう。
◇今週のもっと奥まで〜
渡辺淳一『ある心中の失敗』朝日文庫 700円+税
大御所の恋愛短編集。69〜70年代初めのものが主で、最新でも87年。
性描写シーンはしつこくない。性をめぐる葛藤とか隠されたエロティシズム。「谷崎」の世界でしょうか。紙版引用は表題作ではなく、『ぼし反張女仏』(ぼしはんちょうおんなぼとけ、「ぼし」は足偏に母と足偏に止)。足の指が反り返っている仏像――それはあの絶頂の瞬間?
◇ブックフェア
■「韓国併合100年」 1Fレジカウンター
■「平和の棚」 人文社会新刊コーナー 
■「彷書月刊」バックナンバー  1F階段下 古本市終了後も継続。
古本屋さん有志から全国に檄が飛んだ。その文はフェアコーナーで読んでください。後日くわしく書きます。
◇作家さんご来店
碧野圭さん。デビューは2006年『辞めない理由』(パルコ出版光文社文庫)。続いて本屋が舞台『ブックストア・ウォーズ』(新潮社)など働く女性をテーマに。最新作はスポーツ小説『銀盤のトレース』(実業之日本社)。
自作営業は3分(私、計っていました、嘘です)で、ブログの書店訪問記取材が約2時間。海文堂のドンヨリ曇って湿ったオッサン臭い雰囲気に、さぞお疲れのことでしょう。
(平野)