週刊 奥の院 第50号

週刊 奥の院 第50号 2010.4.9
◇人文社会
大澤真幸THINKING「O(オー)」創刊号 左右社 1000円+税
 特集「連帯のあたらしいかたち」〈ランダムな線〉
 創刊の辞から
われわれはどこに行くのか、どこに行きうるのか。これらのことを知り、また構想するためには、われわれがどこにいるのか、どこから来たのかを知らなくてはならない。未来への構想力を解放するために、現代社会を、〈現在〉を、アクチュアリティと理論的深度の両方を兼ね備えたかたちで考察すること、これが月刊誌『O』のねらいである。
 
 このねらいを実現するため、対話という方法をとる。「対話こそが思考の原型」「ダイナミックな思考の過程を、そのまま読者に届ける」。
 その対話から触発されたことを毎回、大澤が論文にまとめる。
 今号の対談相手は〈中村哲〉「真理は地下水みたいなもの」
 論文 〈子なるイエス・キリスト〉のように
 最初に中村に会いたいと考えたのは、「連帯」について考えたいから。人と人がつながって連帯している。ペシャワール会は20キロを越える用水路をつくりアフガニスタンの人々の命を救っている。
 中村とペシャワール会の活動を、「すばらしい中村さんたちだからこそできた」と考えるのではなく、「中村さんができた以上誰もができうる」と考えてみる。
下川耿史林宏樹遊郭をみる』筑摩書房 1900円+税
 日本各地と外地の遊郭の写真集。すべて市販された絵葉書。
 なぜ絵葉書か?
 遊郭の写真は多数残っているが、建物を撮影したものがほとんどで、通行人もいない。絵葉書のほうが街の風情とか人の様子を伝えている。
 日露戦勝記念の絵葉書が大人気で、国民は郵便局に殺到した。ナショナリズムが沸騰した表れ。これをきっかけに全国の名所旧跡から街の風景など、さまざまな絵葉書が発売された。外国人にも喜ばれる。「遊郭」も「絵葉書に価するもの」=日本文化と認められた。
「撮影者が『より親しみのある』シーンの撮影に一生懸命になった結果、その土地土地に根付いた遊郭の写真が後世に残ることになった」
遊郭で演じられたドラマとともに、そういう時代の息吹を共有したいというのが、この本に対するわれわれの思いである」
 神戸は「福原」の写真が5枚。その誕生は1868(明治元年)年5月、妓楼10軒、娼妓約100人。明治10年代には関西を代表する遊郭になる。
 男中心社会の悲しい歴史の一端だが、確かに存在していた風俗文化。
鹿島茂『パリ、娼婦の館』角川学芸出版 2500円+税
 こちらは19世紀パリ。娼家はフランス語では「閉じられた家(メゾン・クローズ)」「認可の家(メゾン・ドゥ・トゥレランス)「社交の家(メゾン・ドゥ・ソシエテ)などと呼ばれる。「社交」は何となくわかる。それぞれの名称は、語源を説明するだけで、彼の国の「売春の歴史の本が一冊書けてしまうくらい複雑な経路をたどってうまれてきた言葉」。はしょると、行政当局が監視・規制・管理した――一般市民を性病から守ること、今では信じられないが娼婦は同性愛を伝染させるのでそれを防ぐこと。
 著者が本書を書くのは、編集者でありフランス文学者、故山本夏彦との約束のようなものから。著者が資料を集めていて書ける態勢になっていると話すと、山本が「ホウ?」と興味深く返事をした。「メゾン・クローズ」全盛の1930年代にパリに滞在していた。
◇神戸の本
■橘川真一監修『こうべ文学散歩』神戸新聞総合出版センター 1700円+税
表紙の写真は「倚松庵」内部。
目次 
1 歴史を彩る文学 万葉集源氏物語伊勢物語太平記笈の小文、西遊草、新・平家物語
2 神戸開港と西洋文化 八雲、モラエス露伴、蘆花、子規、漱石モーム
3 モダニズムと神戸 谷崎、足穂、今東光、横溝
4 神戸からはじまった 賀川豊彦林芙美子山本周五郎石川達三井上靖大岡昇平
5 ハイカラと港の文学 堀辰雄田宮虎彦島尾敏雄久坂葉子遠藤周作司馬遼太郎
 
 遠藤、司馬遼まで。そのあとはまだ研究・評価の対象になっていないのか。
◇今週のもっと奥まで〜
■西木正明『ガモウ戦記』文藝春秋 1429円+税
紙芝居屋・蒲生太郎、南方から引き上げ、帰ってみれば東京は丸焼け、家族は全滅。戦地で世話になった軍医・金木を頼って秋田の田舎に。戦争未亡人の敏子と深い仲になり、この村で暮らすことに。大らか、たくましい、やさしい、実直で、けなげな人たちとの暮らしぶりが気に入る。自分は、家族もふるさともなくしたヨソモノだが、最高のヨソモノと思える。紙版引用は、太郎と敏子の愛の場面。
◇雑記
■よそさまのイベント 「写真家 中山岩太 レトロ・モダン神戸」 4/17〜5/30 (月曜休館 但し5/3開館、5/6休館) 兵庫県立美術館
 前売り券 一般のみ当店で販売 1000円(当日1200円)
 『中山岩太』(淡交社・10000円+税)在庫あり。
■前号紹介「かいぶんどうのえろほんふぇあ」に、「ちんき堂」さんがポスターを提供くださる。「応蘭芳 『火遊びのブルース』(ビクターレコード)」の宣伝ポスター。たしか「失神女優」。
 「ちんき堂」さん、古い当店のブックカバーもくださる。40年くらい前のもの。同じ絵柄の単行本用は当店にも1枚だけ残っていた。「神戸本」コーナーに展示中。「社宝」にします。感謝!
■『巻くだけダイエット』を茶化して以来、「ダイエット本」についつい目が行く。今、近隣のイベントがらみで、吉丸美枝子さんの「フェロモンダイエット」というのが4冊並んでいる。「40歳からの、生涯美人計画」「毎日7分幸運レシピ」「美乳美尻」などのキャッチコピー。ご本人もモデルで登場してはる。本職モデルさんの「美乳美尻」がチョイH。
(平野)