週刊 奥の院 第48号

週刊奥の院 第48号 2010.3.26
◇人文社会
■『白川静読本』 平凡社 編・発行 1400円+税
 白川静生誕100年。
漢字学者、中国文学者、哲学者、書家、画家、作家、詩人……、日本を代表する47人が、白川静の魅力と魔力を語る。
 巻頭対談 呪能と歌の心――白川静の魅力 五木寛之 松岡正剛
 第一章 白川静という人 宮城谷昌光梅原猛石川九楊池田晶子
 第二章 白河学の広がり 郄橋睦郎、町田康安野光雅日野原重明
 第三章 著作をどう読むか 柳瀬尚紀立花隆中野美代子荒俣宏

 略年譜を見る。1910(明治43)福井市生まれ
          24(大正13)大阪の法律事務所で働きながら夜学
          30(昭和 5)京阪商業卒 3年間、病で福井
          33(   8)立命館大学夜間部入学 
          35(  10)大学に通いながら立命館中学教師
          43(  18)立命館大学卒、同予科教授に
          45(  20)文学部助教
          54(  29)同教授
 一般読者向けに本を書くのは1970(昭和45)60歳、大学定年後から。『漢字』(岩波新書)、『孔子伝』(中央公論)など。書いてくれていて、ほんまによかった。
 
藤田三男『榛地和装本 終篇』ウェッジ 1800円+税
 著者は、元・河出の編集部長。79年退職後、全集・文芸書などの企画・編集。
 書名、何と読むのか? またバカを露呈してしまう。
「〜わそうぼん」ではない。「しんちかず そうほん」。著者の別名で、装本家でもある。よく目にするのは、河出文庫三島由紀夫作品『サド侯爵夫人』『源泉の感情』など。ウエッジ文庫の『燈火頬杖』『作家の手』。
 美しい本の数々をじっくりご覧ください。
西岡研介 烏賀陽弘道『俺たち訴えられました! SLAPP裁判との闘い』河出書房新社 1600円+税
 SLAPP裁判とは、「都合の悪い意見や批判を封じるための嫌がらせ訴訟」。ジャーナリストたちが被告にされる。
 西岡は1967年大阪生まれ、同志社大学卒。神戸新聞記者から『噂の真相』『週刊文春』『週刊現代』記者をへてフリー。『週刊現代』で連載した「テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」で、講談社と共に訴えられる。
 烏賀陽は63年京都生まれ、京大卒。朝日新聞記者、「AERA」編集部、03年退社。「オリコン裁判」、雑誌『サイゾー』の芸能記事についてコメント取材を受け、その発言内容に対して『オリコン』から名誉毀損で訴訟を起こされる。出版社・執筆者・編集者ではなく、コメントした彼だけが訴えられた。
 ふたりに限らず、比較強者が比較弱者を提訴する。金銭的、経済的、肉体的、精神的負担=裁判コストを負わせ、苦痛を与え、発言を妨害・抑止する。提訴するだけで、批判者に打撃を与えられる。提訴側は裁判の勝敗は重視しない。
◇新書から
■澁澤龍子・編 沢渡朔・写真『澁澤龍彦 ドラコニア・ワールド』集英社新書ヴィジュアル版 1200円+税
 もう23年という思い。
 亡くなって出版された『夢の博物誌』(北鎌倉の邸宅を篠山紀信が撮影)を、私、持っているはず。
 本書は、澁澤遺品オブジェと、彼のエッセイ。西洋骨董や貝殻、髑髏、鉱物、人形など「ドラコニア・ワールド」に似合うモノがある一方、花札や拳玉も。
「家には、花札の道具一式をおさめた、小型のトランクのような革製の箱があった。鍵までついていて、いかにも秘密めいている。箱をあけると、中には仕切りがしてあって、小さな白と黒の碁石、目玉のとび出すダルマ、房のついた軍配、サイコロ、貫札、竹籠などが入っている。大人がこんな玩具で遊ぶのかと思うと、おかしくもあった」
 夏の海辺で、彼と前妻が花札をしている写真があった。
白倉敬彦春画を読む 恋のむつごと四十八手』平凡社新書 760円+税
 書名は1697年刊行の菱川師宣艶本と同じ。「むつごと」は、いわゆる「体位」だけを指すのではないよう。男女の色恋、交遊、「事」そのものとその前後の佇まいを言う。
 1.「逢夜盃」(あふよのさかづき) 恋の始まり、出逢い。それでも夜に逢って盃を交わすのだから、もう良い仲かもしれない。
 2.「思比」(おもひくらべ) 絵では、既にふとんを敷いている。年長の女性が若い男の手を取って……。
 3.「明別」(あけのわかれ) 昔から「後朝(きぬぎぬ)の別れ」と。名残惜しくて「口吸い」の絵。別れは切ない、恋は儚い。
 ああ、キリがない。
◇今週のもっと奥まで〜
石田衣良『sex』講談社 1400円+税
男前作家。もうちょいロマンのある題名なかったのか? そのものズバリということなのでしょうか。「小説現代不定期連載の「性」をテーマにした短編。
紙版引用は「夜あるく」から。カップルが夜の住宅街を散歩しながら……。ほんま、いやらしいです。
(平野)