週刊 奥の院 第44号

週刊奥の院 第44号 2010.2.26
◇主婦はたいへん!?
岩村暢子『家族の勝手でしょ? 写真274枚で見る食卓の喜劇』新潮社 1500円+税
 食生活・食卓から現代の家族や社会を考える【食DRIVE】の調査。これまでも調査結果を本にしてきたが、ヘンな話やひどい食事に「そんな家庭がどこにある」「話が大げさ」との反応。本書では実際の食卓写真を掲載して「ほんとうの話」であることを伝える。
 普通食品メーカーや調査機関では、任意の1日の3食か、長くても3日だが、【食DRIVE】は7日間のデータをとる。長年の経験で3日間のデータは眉唾もの、7日やると前半と後半(特に初日と最終日)で大きな差が出てくる。前半は、主婦が事前アンケートで答えている「得意料理や自慢料理」が出る。普段はしないが「本当は作るべき」と考えている「お袋の味」も出る。家族も揃って食べる。食卓にはテーブルクロス、花がある。食器の種類・配置も考えている。後半様変わりする。食卓のクロスは汚れたままとか、取ってしまっている。花は萎れ、食器はまちまち、日用品が散乱する。料理はもちろん手抜きというか、家にあるものを食べている。
 【食DRIVE】では最終日が休日に重ならないようにしている。休日だとほとんど外食にしてしまうから。主婦が疲れてしまっている。「外食にも行けず、見栄も張り切れない」ギリギリの主婦と家族の本音が見える。写真で初日と最終日の大きな落差が一目瞭然。たぶん最終日がその家庭の日常だろう。
 「父親が居るとき居ないとき」で料理に差が出る。「居ないとき」はインスタントや“チン料理”。米が切れていたことに気づいても買わない、買ってきたおかずと食パンで夕食。世の父親が知る我が家の食事は「ごく一部でしかない」。「居るとき」の「気遣い」さえ減少傾向にある。「居ても居なくても手をかけない」。
 他に、健康志向とその正体、「誰か」と「明日」に期待する子育て、「子供中心」というネグレクト、「私」を大切にする主婦たち、家族一緒はフレックスで……など。 
 我が家も相当当てはまる。皆さんのお家はどうでしょう? 
◇働く女性はたいへん!!
深澤真紀『女はオキテでできている 平成女図鑑』春秋社 1200円+税
1967年生まれ、編集企画会社経営。「草食男子」の名づけ親。現代の女性(バリバリ働いている)は幸せなのか不幸なのか? 
「女はさまざまなオキテでできています」
(1)「モテ」に夢中になる――「ワリカン」に悩み、「肉食女子」化 
(2)女の「賞味期限」を切らしたくない――「おばさん」になりたくない
(3)結婚したいし、家族も大事――花嫁になりたい、でも「実家」大好き
(4)女性芸能人の生き方が気になる
(5)「幸せ」だけでは物足りない――「成功」したい、でも「自然体」でいたい
(6)追いつめられると「自爆」してしまう――「気配り」があると思われたい、「痛い」女と言われたくない
(7)「女子力」と「女らしさ」はとても大事――みんなに愛されたい
 これらはバブル世代がつくりあげたもの。生き方の選択肢が広がり、「女の時代」「女が元気」といわれ、活躍する。バブル世代はその価値観を下の世代に伝えようとする。下の世代は、バブル世代をバカにしながらも羨ましく思い影響を受ける。「一芸に秀でるだけでは許されず『二者も三者も』期待されている」。「草食男子」をはじめ若い世代が幻想を持っていないから「齟齬が生まれている」。「オキテ」に夢中になり、苦しんでしまう女性たち。
著者のアドバイス。「女のオキテ」に夢中になることが悪いのではないが、趣味でしかないと思え。マニア受けする生き方を選んでもよい。「誰からも愛されたい」という欲望を捨てればかなり楽になれる。
私のまわりにそういう人がいないので「ああそうなんですか」という思い。
◇これも人文社会か、またも河出。
■アーニェ・コリア著 藤田真利子訳『コンドームの歴史』河出書房新社 3200円+税
 著者はアメリカ・メリーランド州立大学の英語学助教授、西洋史・国際ビジネスの学位も。訳者はこれまで数々の「性文化史」を翻訳。
原題は“The Humble Little Condom”「慎ましく小さなコンドーム」(以下コ)。この小さな道具の歴史を語るために著者は410ページを費やした。
「これまで語られてこなかったこの小さな道具を物語るのは、人間の行動、技術、病気、政治、心理、宗教を研究すること」。「エイズ」という悲惨な病気がある現在、唯一の防衛策は「慎ましく小さな(コ)」なのだ。 
フランスの12000年前の壁画に(P)に覆いをつけて(S)している絵があるそうだ。古代エジプトでもギリシアでもローマでも、「性」は開放的だが、男性中心で避妊は女性の責任だった。薬も道具も女性が使用するもの。(コ)の起源はエジプトらしい。紀元前1350〜1200年頃。位の高い人物が相手の「清潔さ」を疑ったり、不義の証拠を残したくなかったり、その保護手段として。
西欧キリスト教社会では、婚姻関係での子孫をつくるため以外の(S)は罪だった。(コ)も罪深い道具。「エイズ」が出現した今でもだ。アメリカの「性教育」は「禁欲教育」で、(コ)に触れることができない。性感染症の歴史が(コ)の歴史にも重なる。広域戦争で病気はさらに蔓延してきた。第二次世界大戦でフランスがアメリカに「清潔な売春宿」提供を申し出るが「アメリカ兵は禁欲」と断わる。結果兵士に病気が広がった。
日本は? 避妊のため使用する割合が高く、病気の広がりも抑えている。一方、性教育がきちんと行われておらず若年層の病気が増加している。
訳者の言。(コ)の歴史を楽しむだけではなく、歴史の教訓をしっかり読み取れ。 
◇今週のもっと奥まで〜
団鬼六『悦楽王』講談社 1500円+税
「SM小説の王」自伝。26歳の時『大穴』という相場小説がヒット、映画化もされた。儲けた金で新橋の酒場を買い経営するが潰す。相場に手を出すが小説のようには行かず失敗。借金取りから逃げ田舎で教師生活3年。アルバイトでピンク映画の脚本書き。給料がよかった。名作(?)『花と蛇』もこの頃の作品。バカ売れした。上京してテレビ制作会社で外国ドラマの翻訳。ピンク脚本のバイトは続いた。映画プロダクションを立ち上げるが、もっとピンク商売はないかと、ついに「SM雑誌」創刊。『SMキング』1972(昭和47)年夏。倒産までの波瀾万丈の3年間。 
(平野)