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『「戦後」の思想―カントからハーバーマス』(白水社)刊行記念
細見和之トークセッション(聞き手:季村敏夫)
●と き 2010年2月20日(土) 開場14:00 開演15:00
●ところ 海文堂書店 2F・ギャラリースペース<Sea Space>
●参加費 500円
●出 演 細見和之(ドイツ思想・詩人)
季村敏夫(詩人)
■細見和之(ほそみ・かずゆき)
1962年、兵庫県篠山市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程終了。現在、大阪府立 大学人間社会学部教授。ドイツ思想専攻、詩人。著書に『アドルノ 非同一性の哲学』(講談社)、『言葉と記憶』(岩波書店)、訳書にベンヤミン『パサージュ論』全五巻(共訳、岩波現代文庫)ほか多数、 詩集に『言葉の岸』(思潮社)、『ホッチキス』(書肆山田)。
思い出せバルバラ
あの日
雨が降った
幸せそうな
きみの顔に
町に海に
船にも
やさしい雨が
おおバルバラ
バカな戦争が
ふたりを分けた
鉄の雨
火の雨が降った
きみをいとしく抱いた
あの人は
生きているのか死んでしまったのか(ジャック・プレヴェール「バルバラ」より)
生きのびるための哲学、それは、敗北した人びとのこころによりそうことだと、大胆に提起する細見和之。カントからヘーゲル、ニーチェからマルクス、さらにベンヤミンからハーバーマスをたどり、生きのびる思想、哲学のあり方が本書で展開されている。冒頭に、プレヴェールの詩が引用される。山田兼士の、絶妙の訳。バルバラと呼ばれる女性へ捧げられた作品を、なぜ、あえて、細見氏は掲げたのか。生きのびることの、ヘーゲルの定義、その日その日を流されて生きるのではなく、多忙な時間を切断し、ある緊張状態に精神を置くこと、激しい姿勢が紹介されている。本の最終部に、「地球という球体の表面」で共存するしかない他者を認めあうことを通じ、「敗者の視点」において生きのびることがそえられる。最後まで一気に読んできて、おもわず目頭がうるむ。「鉄の雨」や「火の雨」を憎むプレヴェールの魂が、突然、においたってくるからだ。そうか、だから、プレヴェールだったのか。21世紀を生きる細見和之は、シャンソンと哲学を結びつけようと試みる。読者は、どうかこの感覚、直観を背負って欲しい。 恋人たちをひき裂いてきた戦争。いまもそうである。ノーベル平和賞の受賞者が正義の戦争を行使する。いったい、戦争の絶滅は可能なのか。歴史は絶えざる戦後、愚かな戦争を犯し続ける人類の現実にあって、より深く生きのびるため、敗者の痛みを背負い、隣人の悲しみを分かちあう方法を編み出すこと、細見和之の新著はあつく訴える。
(季村敏夫)
※終了しました。