第43号 2010.2.19

週刊奥の院 第43号 2010.2.19
◇出版もの&業界もの
■吉川登・編『近代大阪の出版』創元社 2300円+税
第一章 江戸時代の大坂出版界――出版メディアを支えた大坂本屋仲間 羽生紀子
第二章 明治期大阪の出版と新聞 平野翠
第三章 青木嵩山堂の出版活動 青木育志
第四章 大阪出版文化と金尾分淵堂 石田あゆう
第五章 明治期〜大正期大阪講談本の世界――立川文庫を中心に 旭堂南陵
第六章 大正期大阪の「出版文化展」 吉川登
第七章 プラトン社の興亡 小野高裕
第八章 創元社の出版活動 大谷晃一
第九章 近代大阪における漫画出版――風刺雑誌・漫画雑誌が伝えるもの 増田のぞみ
装幀 上野かおる
第一章の羽生さんによる。心斎橋筋は日本一の「本の街」だった。五、六町に40〜50軒の書肆が並んでいたと、大坂城勤番として滞在した江戸の滑稽本作者「平亭銀鶏」が書いている(『街廻噂ちまたのうわさ』1835年)。当時の本屋は出版業も兼るが、江戸の本屋街は販売専門の店舗が多かったようだ。
なぜ大坂に大きな「本の街」ができたのか? 懐徳堂に代表される私塾が数多くあり、文人・学者が集まってきた。商業都市の経済力をバックに豊かな文化が醸成され、さらに多くの文化人を惹きつけた。
また、出版の機構整備も進んでいた。業者の組合・本屋仲間ができるのは、京都1710年、江戸21年、大坂23年だが、前身となる組織は大坂で1698年にできていた。増加する出版物をめぐる権利問題を契機に、同年8月に24名の書肆が重版・類版(いわゆる海賊版)の禁止を奉行所に請願し、禁止が申し渡された。さらに11月、重版事件で24名他本屋全員が召し出され、重版書の処分と、24名による月行司制の自治組織が認められた。加入者に「板権(版権)」が認められ、行司が開版申請処理や重版事件調停を行った。「仲間」は1759年に102名、81年177名、1813年には343名に達した。
第六章で、1926(大正15)年3月大阪図書出版業組合が主催した「出版文化展覧会」について書かれている。その名簿に見覚えある名が。「大阪寶文館」「受験研究社」「駸々堂」「柳原書店」など。組長の挨拶で、大阪の出版事業が「正当な評価を得ていない」「弘く世に之を問わん」「大阪出版物の実質を展観し以て出版文化の普及に努めん」と。当時は「関東大震災の支援活動やその後の大阪出版界の上昇機運からくる自信」と「前年には東洋一(世界六位)の都市人口二〇三万人を記録し、『大大阪』の活気に溢れていた」のである。
■齋藤一郎『出版営業百ものがたり』遊友出版 1200円+税
 同社代表。業界新聞に12年にわたり連載したもの。これまでも出版営業の著書あり。
 自社本のジャケットカバーを持って営業まわり、店頭在庫の破れたもの、汚れたものを取り替える。「注文を受けただけでは本当の意味の売上げではない。本を読者が買って、それで初めて商売が完結する」という考えから。カバーを交換する(それがすべてではない)だけで、売上げに貢献でき、返品が減り、信頼が生まれ、販売ロスも減る。
 近頃は電話だけで営業する出版社(それも代行業者)が多い。こちらの都合などおかまいなしで、私は「FAX送って」と応対することにしている。電話の人に怒ってもしかたないし、案内チラシを読んでる人と話してもムダなのです。
 同じ電話でも、「今度出張でそっち行くから、時間作れ」という話ならいくらでもOKです。人間関係が大事です。
◇関西もの
■山田かおり 山田まき・絵 『株式会社 家族』リトルモア 
著者、尼崎出身、ファッションデザイナー。プロフィールに、京都芸術短大卒業後ファッションブランド『QFD』立ち上げとある。絵は妹さん。
スターバックス」を「オートバックス」と言う父、会社員ではない娘に「いつまでニートか」と。「いっぺんユニクロ連れてったらなあかんな」と説教する。
銭湯で背中が花柄の人を見つけて「きれいなお花咲いてやるなあ」と言った妹。おまけに絵をなぞった。
東京で買い物して家に配送してもらうのに手持ちのカラタッパーも一緒に入れてと要求して断わられた母。その腹いせにその店のディスプレイのかつらを黙って持ち去った著者。
まあ、関西人というのはオモロイ人が全国平均より多いのは間違いなしです。
◇今週のもっと奥まで〜 めずらしく生物学の本。
榎本知郎『性器の進化論 生殖器が語る愛のかたち』化学同人 1500円+税
 なにゆえ取り上げたかわかるね? ただ書名に釣られただけ。真面目な生物学の本です。著者は東海大学医学部准教授、専門は霊長類学。
「人間の性現象は、繁殖という枠にとどまらず、ヒトとして生きていくなかで、生殖器、性生理、性行動、性交渉、雄と雌の関係性などが相互に密接に関連しあった複合体として進化してきた」
 系統的に近縁の動物と比較分析しながら、生殖器を突破口にヒトの性現象の進化に挑む。
「哺乳類は、ほかの動物に比べても雌の負担が大きい」 
 子宮内で育て、出産後も母乳を飲ませ世話しなければならない。雌雄が極端に不公平。
「負担が大きければ大きいほど子孫の数は限られてしまうから、その数少ない子どもを優秀なものにするためにも、父親になるべき雄を厳しく選ばなければならない」
 選ばれる雄、たとえばチンパンジー、配偶者が決まっておらず誰とでも交尾する。他の雄に勝つため大量の精子を製造しなければならない。「精子競争」。そのために(睾)が大きい。また、精子は雌の体内で後から来るのをブロックするため固まる。それを突き破るように(P)は尖っている。
 ゴリラは配偶者が決まっている。1頭の雄は平均して3頭の雌と交尾する。年に数回だ。よって(睾)も(P)も小さい。ゴリラの交尾は繁殖のためだけ。
 ヒトはどうか。(睾)をぶらさげているから「競争」していることになる。しかし、「競争」するならチンパンジーのように乱交し、(睾)をもっと大きくすべき。配偶者とだけならゴリラのように小さいモノでいい。「競争」だけではないし、繁殖のためだけではない、貞節でもない。謎である。「愛」とか「恋」は科学でとらえられるのか?

 紙版ではおまけの「奥まで〜」あり。
(平野)