人文社会

『神保町「二階世界」巡り 及ビ其ノ他』坂崎重盛平凡社・1900円+税
一体誰が,神保町に立ち並ぶ古本屋さんの二階だけの案内記を書くだろう、書けるだろう? この人が書く、書ける。
一階と二階の品揃えの違いを書く。狭い急な階段を上がると「良心的にした豊饒なる古書の楽園」「値段の付いた資料館、美術館」が現出する、まさに「古書恐るべし!」、神保町自体が「古書店が集中している奇跡的ともいえる街」で、「世界に冠たる“幻想都市”」と。
 「私は、その“奥の院”たる『二階世界』を堪能し、そこでのいくばくかの獲物を手に、いつも夢見心地のまま地上の人となる」
 表題の文章他、好きな作家、好きな町、好きな本の数々を綴る。坂崎さんは1942年東京下町の酒屋の生まれで、少年の頃から自転車で古本屋巡り。「中途半端な理科系(造園科だそう)」を出て公務員、3年で辞めて編集・文筆生活。自分の文章は無手勝流で、論理的・整然ではない、言語的統一・論旨の整合性重視せず、真面目でネガティブな文章は書けない――「歌うような、口ずさむような」「踊るような、泳ぐような」心づもりや身ぶりで書いてきたと。そう、この人の“芸”なのです。表紙ほか図版はすべて坂崎さん所蔵のもの。
 神田神保町関連では「神田古本まつり」(10.27〜11.3)、「神保町ブックフェスティバル」(10.31〜11.1)に合わせて、『はじめての神保町』(飛鳥新社・1048円+税)、『神田神保町古書街 2010』(毎日新聞社・1429円+税)が出てます。
(平野)