■『ナンシー関リターンズ』  ナンシー関世界文化社 1200円+税
テレビコラムニストで消しゴム版画家の、ナンシー関が亡くなってはや7年。もう本は出尽くしたかと思っていたら、未収録のものがまだあったんですねえ。
〈「見てつまらなかったからチャンネルを変える」ということを「恥」と感じる。それは事前に、その番組のつまらなさを見抜けなかった己の能力不足の露呈だからである。〉
などという覚悟を持ってテレビを見ていたのです、この人は。
彫られたタレントさんは過去の人でも、ナンシーの文章は今読んでも面白い。こんなこと書いてもいいんかいというような批評も、完全に主観に基づいているせいか、家族が悪口言ってるように聞こえて許されるんだろうなあ。
ネットが跋扈しテレビが衰退しつつある昨今なら、彼女はどんな風に風刺しただろうか。それに何より今話題の人たちを、どんな消しゴム版画で見せてくれただろう。
本書は、けしごむ偉人伝やテレビな日々などのコラムと、ナンシー関自伝「彫っていく私」を収録。私、うっかり本気にしちゃいましたよ、この自伝。でも父方の祖父まで何代かに遡って、40歳で亡くなっているという設定はなんだかリアル。ナンシーが亡くなったのはほぼ40歳(39歳11ヵ月)だし…


■『宵山万華鏡』          森見登美彦集英社  1300円+税
 デビュー作『太陽の塔』の、あの古めかしくも妙ちくりんな文体にやられてしまった人!ハイ、私です… 『夜は短し歩けよ乙女』では山本周五郎賞などというビッグな賞を受賞し、人気実力ともに今一番新刊を待たれる作家の一人となったモリミー。先月は「きつねのはなし」も文庫化されました。これがいつものおちゃらけではなくて、格調高くクールなホラーなんですね。
さてこの新刊、
〈 気をつけないと、<大切な人>を失ってしまう――
奇怪、痛快、あったかい。森見流ファンタジーの新境地! 〉
というのが集英社のキャッチフレーズ。
京都祇園祭宵山の迷宮をさまよう登場人物たち。金魚、骨董はおなじみのキーワードだけど、バレエ、画廊に偽祇園祭って?
この題材を、森見節で読んでみたいと思いませんか。
この著者の本を読んだことのない人でも、京都の地理が分かる方ならそれだけで、ぐっと身近なお話として楽しんでいただけます。
朝日新聞の夕刊に連載小説も始まり、すっかり全国区の作家に。もはや関西人のための森見君ではなくなって寂しいような。それにしても今後、このまま京都路線で突っ走るのか、そろそろあっと驚く新展開を見せてくれるのか。
どんな大物作家になるのか大いに楽しみであります。
(熊木)