kaibundo2009-06-01

 ■『甲子園ホテル物語 西の帝国ホテルとフランク・ロイド・ライト』 三宅正弘 / 東方出版 2200円+税
 1930年(昭和5)阪神電鉄が開業したホテル。東京帝国ホテルと並び賞される。
 当時阪神間には、上方文化と西洋文化が融合した独特のモダニズム文化が育まれていた。外国人が多く居住し、サロンがあり、文化人や酒造家・財界人の住まいや別荘もあった。六甲の麓、武庫川と枝川に挟まれた鳴尾村にはゴルフ場、テニスコート、競馬場、野球場、海水浴場などがあり、「モダンスポーツとリゾートの聖地」と化していた。海外からも選手がやって来た。
 ホテルの支配人は林愛作、元帝国ホテル総支配人。設計はライトの弟子・遠藤新。一流の料理人・菓子職人を揃え、和室、スキヤキ、陶芸、茶室など日本文化を取り入れ、外国人旅行者を獲得する。
 44年〈昭和19)戦局の悪化により閉鎖、戦後は占領軍の宿舎。57年〈昭和32)接収解除となるが営業再開はならなかった。ホテルマンたちは、名コック、リーダーとして各地で活躍し、後進を育てた。
 65年(昭和40)武庫川学院に払い下げられ、現在は同女子大学甲子園会館。生涯教育の場としてオープンカレッジが開設されている。本書は同学院創立70周年記念でもある。
 著者は環境学部准教授、地域デザイン・まちづくりが専門。わが愛読書『神戸のお好み焼き』(神戸新聞総合出版センター)の著者ではないか。「甲子園ホテル」の面影を知るために、今もある同時代の名ホテルを、海外含め11ヵ所巡っている。
 出版社は、大阪。昨年業績悪化で民事再生を申請し、この5月認可された。再出発の本である。


 ■『消えた横浜娼婦たち 港のマリーの時代を巡って』 檀原照和 / データハウス 1700円+税
 この出版社、学参やコミック研究本を出しているが、看板はH本と犯罪モノ。「横浜開港150周年」といっても、目の付け所がちがう。
 「港のマリー」と呼ばれた娼婦たちを追う。 
 (本書の帯)より。
 港と女の横浜150年史
 今語られる「白いメリーさん」最後の物語
 港町ヨコハマに立ち続けた外国人相手の娼婦たち――港のマリー。
 昭和初期の名物娼婦「メリケンお浜」、戦後の“パンパン”の生き残りであった老娼婦「メリーさん」の二人を核に、横浜開港から現在までの裏面史を追った渾身のドキュメント。


(平野)