■『本、註多きがゆえに尊からず――私のサミング・アップ』 高橋哲雄 / ミネルヴァ書房 2500+税
 1931年神戸生まれ、甲南大学名誉教授、イギリス経済史・社会文化史専攻。
 古典的帝国主義期のイギリス鉄鋼業がどうの、イギリス労働党の産業政策がなんの、という専門家が、『ミステリの社会学』(中公新書)、『東西食卓異聞』(ミネルヴァ書房)を書いている。『フランケンシュタイン』の女性作家を追跡し、久生十蘭の『顎十郎捕物帖』を解説する。
 膨大な読書量に加え、「映画、音楽、実際に歩いたイギリスやヨーロッパの町や村の記憶――それらが混じり合って発酵し、熟成してガス化し、爆発を待つ」という感じで、50代から〈註のない本〉を書き出す。
 本書は〈人〉――師と先輩学者たちのこと、〈本〉――専門書からミステリ、〈その他〉――イギリス文化論・社会論、などをテーマにしたエッセイ・講演。
  副題の「サミング・アップ」はサマセット・モームの作品名だそうで、「要約すれば」と訳されるらしい。原題表示は編集者の提案。著者は、人生の要約をこんなところでされてはたまらない、まだまだ書くという意味で「なかじきり(中間総括)」「研究人生回顧」と対案を出すが、蹴られた。「歴史家77歳ピーク説」のご本人は不本意の様子。
 装幀は和田誠、表紙はアガサ・クリスティと著者の架空対談の場面。


(平野)