kaibundo2009-05-11

■『アジアが生みだす世界像 竹内好の残したもの』鶴見俊輔編 / 編集グループSURE 1700円+税
 08年12月6日京大会館で開催された「公開シンポジウム 竹内好の残したもの」の記録。
竹内好」は中国文学者、魯迅の翻訳で有名。1910年生まれ、帝大在学中から朝鮮、中国に学び、34年、武田泰淳と「中国文学研究会」を結成。北京留学後、43年召集。敗戦時は中国湖南省。49年「思想の科学」に参加。60年安保条約強行採決に抗議して東京都立大学を辞職。77年死去。
 大東亜戦争開戦時、支持を表明。「諸手をあげて支持する」と。戦後もその言を撤回しなかった。
 鶴見が解説する。「大東亜戦争というものを、目的通り、東亜解放のためにやるのであれば、もちろん、日本が朝鮮を植民地にしているのをやめることになるだろう。攻め入っている中国人との戦いを、もちろんやめることになるだろう、ということがその中に入っているんですよ。つまり、日本は破壊される」
 (目次)
  アジア主義ナショナリズム  中島岳志
  言葉にできないことを抱えて 大澤真幸
  方法としての竹内好      山田慶兒
  時間を飛び越える歴史観   鶴見俊輔
  優しさと厳しさ          山田稔
  竹内好と漢文脈         井波律子
 編集グループSUREは京都の出版社で、鶴見俊輔さんの本を多数出版している。読者に直接販売が主だが、海文堂は数少ない取引書店。


■『空中征服―賀川豊彦大阪市長になる』賀川豊彦 / 不二出版 1800円+税
 今年は賀川豊彦が神戸の貧民窟で救済活動を開始して100年にあたり、さまざまな記念事業がある。貧困問題が深刻化し、賀川の業績が再評価されている。4月にPHP研究所から復刊された『死線を越えて』がよく売れているが、小出版社も地道に賀川の本を出版している。
 賀川を特集した『季刊at(15)』(太田出版)も好調だ。
 本書は、1922年「大阪日報」に連載され、同年改造社から発行された。SF仕立ての風刺小説、当時、既に工業化による煤煙が市民の健康を蝕んでおり、市長になって汚れた空を征服するというもの。秀吉、淀君大塩平八郎近松の「お染久松」も登場する。公害・女性運動・労働運動・官僚主義なども取りあげている。賀川自筆の挿絵がユーモラスだ。


(平野)