週刊 奥の院 9.27

今週のもっと奥まで〜 
■ 村上春樹 編訳 『恋しくて  Ten Selected Love Stories』 中央公論新社 1800円+税
 村上春樹が、『ニューヨカー』や短編集から選んで訳した世界のラブ・ストーリー。それぞれの作品に「恋愛甘苦度」を表示。春樹の書き下ろしも一篇。
 紹介作品。ペーター・シュタム『甘い夢を』。スイスの作家。
 新婚夫婦、幸せで平凡な日常。それでもなんでもないことですきま風。近所でイヤな事件も起きる。
 ララとシモン、仕事を終えると待ち合わせて帰る。バスの中、かかっている音楽は「甘い夢」。家に着いて、彼は階下のレストランにワインを買いにいく。なかなか戻ってこないので、彼女も降りていく。彼は店のテレビを修理してあげていた。店の主人は客たちと最近の事件について話をしている。二人は部屋に戻る。彼女は鍋を火にかけたままだった。ちょいと口ゲンカ。彼女がワインのコルクを抜こうとしている。

……
「悪かったよ」と彼は言った。「たしかに僕が悪かった」
 彼女はボトルを下に置き、まるで仲直りを求めるかのように言った。「あなたが開けてよ」
 シモンは、さあ何が起こるかわからないぞというような、どことなく神妙な表情を顔に浮かべ、娘の両腕をゆっくりと押し下げた。ぽんという明るい音がして、ボトルからコルクが抜けた。
 シモンはにっこり笑ってララを見た。彼女は両腕を彼の身体にまわし、キスし始めた。何度も彼にキスをし、それから彼のシャツのボタンをはずそうとした。
 シモンは自分がそれをどこに置こうとしているか見もしないで、コルク抜きをしたに置いた。二人はしっかりと唇をくっつけたまま、お互いの服を脱がせ、それをそのまま床に落とした。ぴったりとしたジーンズが脚にからまって、シモンは危うく転びそうになった。彼はララにつかまってなんとか体勢を立て直した。彼女のブラのフックを外そうと懸命になっているところだった。二人が裸になったとき、ララはイケアで買ってきたココナッツのマットの上に横になった。そしてシモンは彼女の両脚の間に膝をついた。彼は彼女の中に入ろうとしたが、うまくいかなかった。
「ベッドに行った方がいいんじゃないか」と彼は言った。「ちょっと待って」とララは言って、居間に行って、ソファのクッションをひとつ持って戻ってきた。彼女はまた横になり、クッションを身体の下に置いた。マットは生地が粗く、背中がちくちくしたが、彼女は気にしなかった。やがてシモンは彼女から離れ、となりに横になった。それで彼が達したのだと彼女にはわかった。
 ララの興奮はまだ続いていて、彼のものを……。


◇ うみふみ書店日記
 9月26日 木曜
 休み。「週刊奥の院」最終号。
夕方から三宮。欲しい本がある。J堂に。まだ出ていなかった。顧客のOさんと遭遇。なんか恥かしい。
東京からSさん、大阪T出版Iさん、Kさん、K出版社Tさん、それに重鎮Kさん、【海】から店長、Tと私。「カルメン」。


(平野)