週刊 奥の院 9.26

■ 野崎六助 『異端論争の彼方へ  埴谷雄高花田清輝吉本隆明とその時代』 インパクト出版会 1900円+税
 野崎は1947年東京生まれ、作家・評論家。『魂と罪責 もうひとつの在日朝鮮人文学論』『復員文学論』など著書多数。1992年『北米探偵小説論』で日本推理作家協会賞

 本書は一つの敗北をめぐる物語だ。
 教訓を示すためではない。ましてや、寓話の試隆明の軌跡が描かれる。肖像画ではない。墓碑銘でもない。本書はしばしば彼らを審判台に立たせるだろうが、それは、彼らの時代を後代の高見から訴追するためではない。わたしはむしろ、彼らを陽気な同時代人として、かたわらに同期させつづけたい。......


序  忠誠と幻視のはざまで 
Ⅰ  三人の異端審問がはじまる
第1章 俺は何か悟ったような気になったぜ(一九三三年)埴谷雄高
第2章 生涯を賭けてただ一つの歌を(一九四一年)花田清輝
第3章 おれが讃辞と富を獲たら捨ててくれ(一九五四年)吉本隆明
Ⅱ  異数の世界におりていく
第4章 花田清輝よ、そこには厳粛な愚劣があった(一九五六年)埴谷−花田論争
第5章 ぼくは拒絶された思想としてその意味のために生きよう(一九五七−六〇年)
第6章 死者の数を数えろ、墓標を立てろ(一九六二−六四年)
第7章 俺たちは彼らを〈あちらの側〉に預けておく
第8章 資本主義は勝利することによって、資本主義はすべてに勝利する(一九八四年)吉本−埴谷論争
Ⅲ  〈帝国〉はけっして滅びない(二〇一三年)



 3人による3つの論争がある。
(一) 埴谷−花田。1956年を中心にした「忠誠と幻視」。
「忠誠」=日本共産党とその主導による文学運動への「忠誠」。
 埴谷は非合法時代の活動家として「忠誠」の時期があり、その後離脱。
 花田は戦後、党に「忠誠」。
「幻視」=かつて革命を先導し、扇動する前衛集団が存在し、その集団の権威が地に堕ちる=幻の党になる。
(二) 花田−吉本。1957〜60年、戦争責任、戦時下抵抗。
 戦時中、戦争詩を書いていた詩人が戦時中に抵抗していたと、文壇に登場。吉本は、「転向」はあり得るが、それと「戦争協力」は違う、と。
花田は、詩人たちを糾弾するのではなく、時代と関連させ戦後の芸術運動を高揚させることで乗り越えるべき、と。
(三) 吉本−埴谷。1984年、資本主義の勝利=コム・デ・ギャルソン論争。
 リアルタイムで知るのはこれだけ。
 吉本が『anan』にコム・デ・ギャルソンを着て登場。埴谷が「資本主義のぼったくり商品......」と批判。吉本は消費社会を肯定。

......指摘しておきたいのは、「三」が二〇年以上前の「二」の未決の論点を不徹底に引きずっていたことだ。そのあいだの時期、埴谷と吉本は「友好関係」を保っていたわけだが、「友好」は早晩、決裂していくはずだった。ことは両者の個別の個性によるものではない。簡略にいえば、異端論争に関わった者らには訣別しかありえない。訣別が後れて出現した、ということだ。「二」において、埴谷は吉本の側についた。吉本の勝利を宣告したのも埴谷だった。埴谷の公正でない介入は「二」が「一」とほとんど連続していたことからも説明できる。「一」は不徹底な対立に終わり、「二」の結果、埴谷−吉本の同盟関係が恒常化したような成り行きになったが、「一」の不徹底は、二人の同盟にもそのまま持ちこまれていった。その同盟によって、両者の絶対的な対立が消え去るには到らなかった。彼らは、ただ、異端論争がその当事者におわせる宿命にしたがっただけなのである。
 対立は循環し、非和解に還った。

    


◇ うみふみ書店日記
9月25日 水曜 
「朝日」神戸版で連載開始。「消える灯火 海文堂書店閉店」(全4回予定)。 http://www.asahi.com/area/hyogo/articles/MTW1309252900004.html
 

 ロフ子さん、重ね重ねありがとう。
サンデー毎日』をご覧ください。 
http://mainichi.jp/feature/news/20130924org00m040006000c.html
『jissun  特集 東北の福祉を実寸で読み解く』(実寸委員会 952円+税)
 東北各地の福祉作業所で生産される「工芸品」=授産品を実寸サイズで紹介。
「福祉と民芸と生活の距離をぐっとちぢめてくれるよい本」
http://jissun.web.fc2.com/

 
 鳥瞰図絵師・青山大介による「海文堂書店絵図」が、28日から30日まで【海】で販売されます。他に、「ほんまに」バックナンバー、「荒蝦夷」の本も並びます。

 
 今日もGFがいっぱいで、普通なら仕事どころじゃないはずなのに、レジに釘付けでお話できない状態。不義理。みんな、きっといつかデートしようね! 

 
 何冊も買ってくださった見目麗しき方、『本屋図鑑』を出されて私にサインせよと仰せ。見ると、見たことある名前が数名、すでにサインされている。誰と言わないが、吉祥寺の花○さんは失敗して書き直しておる。「おい、こら、人様のご本をなんと心得おるか!」。
 私が代わりにお詫びして、おまけをお渡ししておいた。

 
 昨日のこと。夕方の休憩でイスに座ってボーっとしていたら、同僚が「魂抜けたみたいですよ......」。わては、真っ白になった「ジョー」か?

 
 グレゴリさんからのレター(写真)。
 わては、「ちんき堂」看板の「ヘンタイおやじ」か?

(平野)