週刊 奥の院 9.21

■ 四方田犬彦 『白土三平論』 ちくま文庫 1000円+税 
 1953年生まれ。宗教学、比較文学。大学で教鞭のかたわら他分野にわたって評論・翻訳活動。サントリー学芸賞伊藤整文学賞桑原武夫学芸賞など。
 本書は漫画評論、2004年作品社より刊行。文庫化にあたり、白土三平先生との一夜」を加える。
? 漫画家になるまで  ? 初期の貸本漫画  ? 『忍者武芸帳』  ? 六〇年代前半の長編  ? 六〇年代前半の短編  ? カムイ伝  ? 『神話伝説』と『女星』  ? カムイのその後  ? 白土三平の食物誌  ? 結論

 白土三平の漫画に圧倒的な影響を受けてきたことを告白する。

……
 微塵隠れの術を本気で試してみようと思った。一九六三年の秋、十歳のときのことである。月刊雑誌『少年』に連載されている忍者漫画『サスケ』(一九六一〜六六)のなかで、主人公の少年が努力に努力を重ねてついに成功するこの忍術を、自分の手で実験してみようと決心したのである。
 いくら木の葉を重ねて撒き散らしても、木の葉隠れの術ができないことは、すでに原っぱに同級生たちを呼び出してみたときに体験的にわかっていた。昆虫にしか聴こえない超音波を口にして、彼らを呼び集めるという虫遁の術にしたところで、口のなかで唸ってみてもいっこうに効果がないことから、挫折していた。オボロ影の術は装置が複雑すぎて子供には無理だし、分身の術はとても体力がおいつきそうにない。いろいろ悩んだあげくに、微塵隠れならばなんとか工夫すればできそうだし、効果が派手だという結論に達した。

「微塵隠れ」とは、洞窟に敵を誘いこみ、仕込んでおいた火薬に点火、爆発させる。自分も危険。前もって穴を掘っておいて身を隠す。呼吸のために長い筒を用意しておくことも必要。漫画の中でも、子供がサスケの真似をして、無残にも爆死している。
 四方田少年は弟と近所の山の洞窟で実験した。火薬は花火の残り。
「気分は少年忍者サスケである」
 結果……失敗。火薬は湿っていたし、洞窟内は水が溜まり、湿度高く、何よりゴミ捨て場と化していて、臭いに我慢できなかった。
 それでよかったと思う。

……白戸先生の漫画を通して学んだものは、微塵隠れの術だけではなかった。
 わたしは『戦争』という連作短編から第二次大戦の悲惨について学び、『忍者武芸帳』(一九五九〜六二)からブラッディソーセージの作り方について学んだ。『カムイ伝』」(一九六四〜七一)から社会に横たわるさまざまな差別について学んだ。『今昔物語』の面白さについて学び、漁師が会場で漁場の位置を以下に記憶するかについて学び、アフリカの神話的想像力のなかから王権がいかに誕生するかについて学んだ。白土三平の作品はわたしにとって、階級闘争を鼓舞する扇動の書物であるとともに、柳田國男に通じるフォークロアの集大成であり、南方熊楠に似た博物学的知の宝庫であるように感じられた。
……批評家としての今日のわたしを形成している核には、ゴダールのフィルムや大岡省平の小説と並んで、少年時代に白土漫画に読み耽っていた体験が横たわっている。ちなみにわたしの最後の夢は、『甲賀武芸帳』(一九五七〜五八)の石丸少年に倣って、茸についての書物を執筆することである。……


 下町のアホガキも忍者に憧れた。漫画雑誌巻頭特集にあった忍者の訓練を真似した。水に顔をつけて何秒息を止められるか、濡れた新聞紙の上を破ることなく走れるか、などを試した。


◇ うみふみ書店日記
 9月20日 木曜
 書籍の新刊配本と雑誌入荷最終日。明日からは注文品のみとなった。
 平野担当のフェア、最後の二つ。
1 平凡社在庫僅少本
  


















2 いっそこの際 好きな本 うらばん  奥の院より観音様がいでまして〜  花房観音、うかみ綾 他。
 
 

















午前中は岡崎武志さん来店。午後はグレゴリ青山さん。ありがとうございます。
 
海文堂書店の8月7日と8月17日』(夏葉社)、お知らせより1日早く入荷。おかげで、ご両人に買っていただけた。
  
 
















 本書についてもう紹介が出ました。ありがとうございます。
「空犬通信」 http://sorainutsushin.blog60.fc2.com/blog-entry-2130.html
 営業マンさんが大勢訪問。皆、もう注文を取れない。本を買ってくださる。
 一人だけ営業したのは京都H蔵館のK女史。テレビで紹介された本、「直送しますやん」。しっかり者。


(平野)
本日より、 成田一徹 切り絵展  2Fギャラリー 27日(金)まで。 入場無料。