週刊 奥の院 8.21

■ フローレンス・ウィリアムズ  梶山あゆみ訳 
『おっぱいの科学』 東洋書林 2800円+税
 原題、“BREASTS a natural and unnatural history”。著者はコロラド大学で教鞭をとり、雑誌『アウトサイド・マガジン』編集も。他の雑誌にも環境、健康、科学をテーマに寄稿。
 ここまで書いたら、本書が真面目な本だとご理解いただけるでしょう。著者は現代アメリカに生きる女性として、「からだの仕組みの自然、不自然を科学する」。
 
 序章より。

 子どもができるまで自分の乳房については深く考えたことはなかった。胸がふくらみ始めたのは人並みの年頃、以後はとくに問題もなく気に入っていた。スポーツの邪魔になったり肩が凝ったりするほど大きすぎはしないし、存在を忘れるほど小さくもない。(胸の大小に悩む女性もいる)……はるか昔に人類が誕生して以来ずっと進化を続けてきたその真実とは、「乳房は本当に重要だ」ということだ。祖先の哺乳類が台頭した背景には乳で育てることが大きな鍵を握っていた。……

 母親のそばで栄養をもらえる。気候変動や食糧不足でも哺乳類は環境変化にうまく適応できた。ヒトの進化にも「乳」は大きな役割を果たす。赤ん坊は以前より小さい体で生まれるようになり、脳が大きくなる。母親の臀部は狭くてよくなり、二足歩行へ進化する。身振り、親密な関係、コミュニケーション、集団への適合……乳首をふくむことで口蓋が発達し、話す準備ができ、唇が進化。

……つまり、乳房は人類が世界に君臨するのを助けただけでなく、キスという素敵な技術(原文傍点)を生み出してくれたのである。……

 著者は、授乳しているとき目にとまったニュース記事で、乳房に対する見方が変わる。母乳を通して化学物質=毒が赤ちゃんの体に入って行く。
 乳房の内側を考える。どういう仕組みで働くのか、体のほかの部分とどうつながっていて、周囲を取り巻く大きな生態系からどんな影響を受けているのか。
 大学で、細胞と遺伝学、内分泌学を研究。さらに進化生物学、細胞生物学、がん生物学も。研究のなかで見つけたのは、不安をかき立てる深刻な問題ばかりではなかった。
 
序章 乳房の惑星
1 誰がために胸はある  2 哺乳はこうして始まった  3 乳房の配管工事のやり方、教えます  4 豊胸の時代  5 おなかのなかまで届く毒  6 シャンプーやマカロニが少女の思春期を早める?  7 妊娠と乳がんの割り切れない関係  8 母乳VS.粉ミルク 正しいのはどっち?  9 母乳のなかの聖なる最近、何より大事な人間の腸  10 酸っぱいミルク  11 未踏の荒野にひしめくピルとホルモン剤  12 誇り高き少数の男性患者たち  13あなたは高密度? 老いゆく乳房と乳がん検診  14 乳房の未来

「訳者あとがき」より。
 本年5月、アメリカの有名女優が予防的な乳腺切除を公表。乳がんについて大きく関心が高まった。遺伝性がクローズアップされているが、ほとんどの乳がんは遺伝性ではない。男性も乳がんになる。早期発見は大切だが、

……その前に、早期発見するための検診方法の長所・短所も含め、乳がんについてもっとよく知ること、乳房自身についてもっと知ることが重要ではないか。……

 著者。

 乳房をもつことがヒトの証しであるなら、乳房を救うことは私たち自身を救うことにほかならない。

それでも私はスケベ興味で取り上げる。


◇ うみふみ書店日記
 8月20日 火曜
 お客さんのお話。
「中学生の時ここでガリ版刷りの入試問題集買って勉強した。そこから3問も出た。社会人になって(昇進?)試験でもここで買った本から出た」
(私)「ひょっとして、人生の恩人?」
 妙齢の女性。
「さびしいわ、さびしいわ、さびしいわ……」
(私)「また女を泣かして……」
 お客さんそれぞれに思い出がある。

 新刊案内のファックスは相変わらずたくさん来る。でもね、もう9月中旬以降の本は注文できない。【海】に未来はない!
 ふだんなら絶対平積みするであろう、【ロミ著『三面記事の歴史』国書刊行会、9月下旬】の案内。捨てられない。私はこの本をどこで買うのだろう? ひょっとして、私にも未来はないということか?
 
 NR事務局から、ご一行様来店連絡。
 Iさん歓迎呑み会、出席の返事がいつもの会より早いのはどういう訳? 
 未確認情報。神保町のT堂で『眼』が面陳列……の噂。
(平野)