週刊 奥の院 8.4
■ 安岡章太郎 『文士の友情 吉行淳之介の事など』 新潮社 1900円+税
安岡は本年1月92歳で亡くなった。
目次
吉行淳之介の事 豆と寒天の面白さ 好天の夏日
弔辞 遠藤周作 遠藤周作との交友半世紀
遠藤周作宛書簡 逆戻りの青春 ……
対談 人間と文学 ×小林秀雄
座談会 島尾敏雄〈聖者〉となるまで ×小川国夫、吉行
座談会 僕たちの信仰 ×井上洋治、遠藤
「好天の夏日」
吉行淳之介の周囲には、死の予感が深く籠っていた。しかし予感は決して現実ではない。吉行自身、昔から自分の病気を飼い馴らし、そこに死の予想は当然あったろう。川端康成の『末期の眼』を私に教えたのも吉行である。
修行僧の「氷のやうに透み渡つた」世界には、線香の燃える音が家の焼けるやうに聞こえ、その灰の落ちる音が落雷のやうに聞えたところで、それはまことであらう。あらゆる芸術の極意は、この「末期の眼」であらう。(吉行は暗誦していて、安岡に教えた。吉行70歳、安岡70半ば)
……ここにこんなことを書くのは、当時の吉行が如何に自分の死を忘れていたがか、それを世間の人に知って貰いたいからだ。死は当人にとって最も深刻な問題である。然し、だからこそ死を芸術一般の話題として語ることもできたわけだ。
それから一年余り後に、吉行は死んだ。命日の前年のあの日は、好天の夏日だった。
■ 『阪神間からの贈りもの 人と文化の徒然抄』 阪神文化交游会 編 神戸新聞総合出版センター 1600円+税
同会は、阪神淡路大震災後、文化財保存・復興活動を行う。芦屋市立美術館存続、旧谷崎潤一郎邸復元、旧武藤山治邸再建など。本書は同会主催の講演会記録。
能美晋 「阪神間文化とは」論 より。
阪神とは、大阪でも神戸でもない、ましてや阪神タイガースではない。大阪と神戸に挟まれた六甲山を背景にする地域・阪神間に、明治末頃から生まれた新しいライフスタイルを考えてみたい。ようやく日本にも発達してきた資本主義の恩恵を受けた大阪商人や神戸貿易商達が、温暖風光明媚なこの地域に、鉄道の開通と共に別荘地・郊外住宅地として移り住み、彼らの旦那心と西洋文化の浸透が相まって築き上げた新しい文化である。……
○ 谷崎潤一郎――阪神間転居の歴史 たつみ都志
○ 与謝野蕪村筆 国宝「夜色楼台図」幻想 木村重圭
○ 阪神間に住んだ画家たち 武藤治太
○ 冷泉家・蔵番ものがたり〈抄〉 冷泉為人
○ 謎がいっぱい、浮世絵の世界 中右暎
○ オーケストラを聴いてみませんか 服部喜久男
○ 日本の裸体表現 宮下規久朗
○ わたしの落語人生 桂南光
○ 美の猟犬――安宅コレクションの舞台裏 伊藤郁太郎
……
カバーの絵 小出楢重「薔薇」
(平野)