週刊 奥の院 7.28

■ 朴順梨(ぼく・じゅんり) 『離島の本屋  22の島で「本屋」の灯りをともす人たち』 写真・今井一詞 地図作成・シナダミキ 装丁・安藤順 ころから発行 トランスビュー発売 1600円+税
もくじ
旅のはじめに 
1 「本屋」がない島で「本を手渡す」人たち  小笠原諸島 東京都
2 昭和のレジが活躍する それが「島の本屋さん」  伊豆大島 東京都
3 昔懐かしい紙芝居が今日も物語を紡いでいます  中通島(なかどおりじま 五島列島長崎県
4 図書館司書にして書店員 日本最北端の「本の窓」  礼文島 北海道
5 みんなのための一冊 ひとりのための一冊  生口島(いくちじま) 広島県  弓削島 愛媛県
6 Uターン青年と築100年の本屋  周防大島 山口県
……
20 亜熱帯の島 香り立つ本屋たち  沖永良部島 鹿児島県
旅の途中で

 フリーペーパー『LOVE 書店!』(NPO本屋大賞実行委員会)で約8年連載。
「旅のはじめに」より。

 日本には6000以上の島があり、そのうちの約400の島では人が暮らし、人口5000人以上の島には大抵、「本屋」がある(と、取材を通じた実感でそう思っている)。
 とはいえハードカバーから文庫、マンガや雑誌までが並ぶ“絵に描いたような本屋さん”から、雑誌や新聞コーナーがほんの片隅にあるような商店まであるので、何をもって「本屋」と呼ぶのかは定かではない。……
(図書館と本屋が合体したような場、年に一度の移動書店、自宅内図書館……)
……この連載をスタートさせた頃は、“絵に描いたような本屋さん”こそが本屋だとばかり思っていた。けれど、あちこちの島を訪ねるうちに、その思いはどんどん小さくなり、しまいには溶けてなくなった。
(取材の電話をすると、「うちに来ても、何もないよ」と決まって言われた)
 しかし飛行機やフェリーを乗り継いで島を訪ね、お店に足を踏み入れてみて「たしかに何もないな……」と落胆したことは、今まで一度もなかった。
 島民にとっては当たり前に見慣れた景色でも、旅人の私には、電気を必要としない旧式のレジですら新鮮に映った。初めて目にするものばかりで、「うわあ!」とか「へー」っとかの声をあげる私を見て、「そんなに喜んでくれるなんて……」と恐縮されたことは、一度や二度ではない。


 兵庫県家島(いえじま。昔は「えじま」だったぞ)
 姫路港から高速船で30分。本屋さんは1933年創業「福島文姫堂」。文具・本・菓子。圧倒的に雑誌。文芸書はベストセラーが少しあるだけ。
 店主、「みんなせっかちで、ゆっくり本を読む人が少ないですよ」。
 90年代まで船は1日に5便。

 その時間に合わせてスピーディーな行動が求められていた。島の生活がゆっくりのんびりなんて大間違い! しゃきしゃき動いて働いて、が家島での正しいあり方だったのだ。

 今は日に20便。姫路に出る人が多くなり、ますます売れなくなった。
 顧客の中心は子どもたち。10代の女の子向けファッション誌と駄菓子。取材時に売れていたのは、3980円の格安DVDプレーヤー。主婦層が韓流ドラマを見るため。
 先代が溜め込んだレトロな文具が売れる。

 八丈島
「八丈書房」。50年以上の老舗を引き継いでいるのはSさん一家。元は自動車修理業。手伝うのは編集経験のあるUターンの人。定期購読のお客さんが多い。
「でもねえ、船が欠航すると本が届かないんですよ。特に冬がひどくて、月に10回も欠航したりするんですよ」
 東京都下、情報に差はない。お客さん多くが若い人。
 ご近所さんが野菜をお裾分けに立ち寄り、自転車パンク修理の依頼も。

……うねる波にも、立ち向かわなくてはならないのが人生。でも傍らに本があれば、つかの間の癒しになってくれる。折れそうな心を少しだけ支えて暮れる。そんなことを教えてくれた島だった。


 沖縄県北大東島
 那覇から飛行機、人口500人超。島に本屋はない。那覇の「リブロ」が年1回出張本屋開催。本は船で運ぶ。参考書、教育関係書、絵本、コミックが多い。『ハリー・ポッター』などのベストセラーは図書館にあるので意外に不人気。
 子どもたちが早起きしてお小遣いを手に飛び込んでくる。マンガにするか小説か、値段と相談。それこそ「お宝」の本をゲットしても、すぐには会場を去らない。他の本もチェック。廊下の椅子では夢中に読んでいる子も。大人たちも楽しみにしている。

 この島では本屋が来ることは、まさにお祭りの1つ。大人も子供も、そのお祭りをとても楽しみにしているのだ。……わずか24時間の滞在。なのに24日分に匹敵するような、濃い記憶を残してくれた島だった。

 ……
 
 単行本化にあたり、各本屋の「その後」も取材。既になくなってしまった本屋もある。
(帯)

山のむこう 海のむこう ひとのいるところに 本屋は灯りをともす 街灯のように 灯台のように 希望の色をした灯りを  西炯子(漫画家)

 カバー写真、愛媛県弓削島「はなぶさ書房」。人口3600人、交通手段はフェリーのみ。コミックと雑誌が主力だが、書籍にも力を入れている。
(平野)