週刊 奥の院 7・24
■ 得地直美 本屋図鑑編集部 『本屋図鑑』 夏葉社 1700円+税
「本屋は友人であり、家族である」
夏葉社・島田代表の冒頭の言葉。
吉祥寺の一人出版社。2010年創業以来、埋もれている本・作品を復刊してきた。オリジナルではエッセイ集『冬の本』。
本書は、島田が全国を営業して歩いてまわった書店の中から、「町の本屋」を紹介するもの。北は稚内から南は石垣島、47都道府県。
本書のために半年かけてまた訪ね歩いた。
協力したのは空犬太郎(ブログ「空犬通信」)、イラストレーター得地直美。
空犬通信 http://sorainutsushin.blog60.fc2.com/
得地直美 http://blog.hitokuchi.com/
ありがたいことに【海】も載せてもらいました。恐れ多いことに、名古屋の名店「ちくさ正文館本店」と見開きページ。次ページは「東京堂書店神保町店」、さらに「往来堂書店」、続いて新潟「北書店」……。
【海】
海文堂は、関西の本好きに広く知られる。文芸書棚、映画棚、音楽棚、人文書棚、雑誌棚、児童書棚、理工書棚、芸術書棚。どの棚の前に行っても、「さすが海文堂」とうなずかされること請け合いである。海文堂にならあるだろうと思う新刊は、必ず入っている。敷居が高いというのとは全然違う。働いている人たちはやさしく、外観も、店内も、見た目は、商店街の「町の本屋さん」である。そのバランスにやられる。毎日、通いたくなる。
(神戸の本、震災本に言及)……東日本大震災が起こった二〇一一年、この書店が、「激励の言葉より本を売る!」というフレーズとともに、仙台で被災した出版社「荒蝦夷」のフェアをいち早く開催したことは、この書店の性格をなによりも雄弁に語る。
そして、忘れてはいけないのが、二階の海事書コーナー。一般書店でこれだけの海事関連書がそろっている売り場を目にすることはまずないといっていい。……
得地のイラストは、私が「奥の院」と言っている人文書コーナーの一部。一冊一冊の本を描いてくれている。私なりの欲を申せば、もう少し右奥に寄ってもらったら、「スケベ本」が並んどったのに、残念〜。
一章 本屋さんの中 本屋の棚 入り口・雑誌棚、新刊平台、カウンターまわり、文芸書棚、文庫・新書棚、人文書棚、実用書、旅行書、児童書……
二章 町の本屋さん 本屋の立地 駅前、駅の中、帰り道、学校の前、商店街、道路沿い、ショッピングセンター……
三章 本屋さんの棚をじっくり見る とっても濃い〜、人文書・文芸書、新刊平台、時代小説、詩集、美術書、歌集、教育書、郷土書……
四章 もっといろんな本屋さん 意外な場所の本屋 空港、大学、美術館、病院、島、川辺、麓、山里、最北端に最南端……
五章 本屋さんの歴史
コラム・インタビュー
附録
栃木市「出井(いでい)書店」、学習参考書棚を紹介。明治創業の老舗、奥半分が古い蔵のような造り。
……店頭に立つ長谷川千子さんは大正生まれ。「お客さんに迷惑をかけないように」、それだけを考えて、昭和八年から店頭に立ってきた。昔は、小柄な長谷川さんが、神田村まで自ら買い出しに行き、重い本を背負って帰ったという。お客さんのため、本当にそれだけを考えてきた、町の本屋さんである。
指宿市「文苑堂書店」は駅前にある本屋さん。JR乗り継ぎの学生たちが時間をつぶしている。三代目店主はこの光景を40年間見つめてきた。
……立ち読みだけでなかなか買ってくれないんじゃないですか?と聞くと、「いつも買ってくれるわけじゃないけど、買ってくれますよ」と笑う。……取材時、小学校低学年くらいの女の子が一時間以上も、文具売り場と漫画雑誌の売り場を行ったり来たりしていた。彼女は最終的にきらきらひかるシールを一枚買った。指宿に住む人たちはみな、文苑堂でそうした小さな思い出を重ねていく。
各店の紹介文を読み、イラストを見ていると、目と鼻に温かいモノが滲んでくる。“本屋愛”が伝わってくる。
同社の本を常に扱い、たくさん売るのは都心の巨大書店でしょう。それでも地方の小さな「町の本屋」一軒一軒を大事・大切と思ってくれる。
カバーの絵は、大分県佐伯市「根木青紅堂書店」の1960年代の姿。2008年に改装、美術書が古い家具に収められ、農工具や調度品がリメイクされオブジェに。
「なんというか、店にあるすべてが、愛情あふれんばかりである」
家族5人で運営。
「自分の生活から遠い場所に、いい本屋さんがあるというのは、本当にうれしいことである。いい本屋さんがあるということは、つまり、その店のまわりに、本を愛する人がたくさん暮らしているということでもある」
(平野)
夏葉社にまた泣かされた。