月曜朝礼新刊紹介
【文芸】 クマキ
現代アメリカ文学を代表する二人の評伝。
■ チャールズ・J・シールズ 『人生なんて、そんなものさ カート・ヴォネガットの生涯』 金原瑞人 桑原洋子 野沢佳織 訳 柏書房 2800円+税
カート・ヴォネガット(1922〜2007)は、43年コーネル大学を退学、徴兵を待たず陸軍志願、ヨーロッパ戦線に。バルジの戦いで捕虜になりドレスデンの収容所。45年2月13日夜、連合軍の無差別爆撃煮よって市民と中世以来の文化遺産は大きな被害。死者は控え目な数字で13万超。連合国側は63年までこの爆撃を隠した。
彼の戦争体験をもとにSF仕立てで書いたのが『スローターハウス5』(邦訳ハヤカワ文庫)。発表したのは69年3月、この頃ベトナム戦争激化、多くのアメリカ兵の戦死。
「スローターハウス」とは食肉処理場、そこが捕虜収容所だった。
正式なタイトルは、『スローターハウス5 または、子供十字軍、死との義務的ダンス』。「子供十字軍」というフレーズが、第二次世界大戦世代と、東南アジアの紛争に巻き込まれた当時の若者たちをつないだ。ベトナム戦争のおかげで「アメリカの指導力と動機がいかにいかがわしく、どうしようもなく愚かであるかが明るみに出た。我々はそのとき初めて語ることができるようになった。想像を絶する極悪人たち、つまりナチスの連中に対して、我々がひどいことをしたということを。わたしが見たもの、わたしが報告しなくてはいけないものは、戦争がいかに醜いものかを教えてくれる。ご存知のように、真実はじつに大きな力を持つことがある」。
著者は伝記作家。
本文600ページ、註・参考文献70ページ超。
■ キャロル・スクレナカ 『レイモンド・カーヴァー 作家としての人生』 星野真理 訳 村上春樹 解説 中央公論新社 3500円+税
レイモンド・カーヴァー(1938〜88)。没後25年。
村上春樹が少しずつ翻訳していき、彼が有名になるにつれてカーヴァーも日本で有名になったという印象。
アル中で薬中、肺ガンで亡くなったのは50歳。
村上が本書を読んで深く考えたこと。
「人生の最初から最後まで一貫して、依存の問題に苦しめられていたように見える」
ハイスクールを卒業して、1歳下の女性と結婚、2人の子ども。生活は彼女に頼り、大学に通う。小説の書き方を教えてくれる教師たちに深くよりかかった。彼を認めてくれた編集者は、彼を有名にしてくれたが、精神的に支配し、その作品を勝手に大幅に書き換えた。カーヴァーが抗議しても、無視。カーヴァーはストレスからますます酒に溺れ、自信を失い、健康を損ない、まさに死の瀬戸際まで。
酒は断ったが、家庭崩壊、破産宣告、再婚。編集者とも縁を切った。ニコチン依存は断ち切れなかった。それが命取り。
……「うん、そういう人っているんだよね」という声がどこからか聞こえてきそうだが、カーヴァーの凄い点は言うまでもなく、「そういう人っているんだよね」的地点に留まることなく、そのぎりぎりの「依存の綱渡り」の合間を縫うようにして、歴史に残るであろう輝かしい一群の文学的成果を生み出したところにある。……(略)……僕らはその事実をただそのまま受け入れるしかない。……(村上春樹)
【芸能】 アカヘル
■ 田中眞澄 『小津ありき 知られざる小津安二郎』 清流出版 2800円+税
生誕110年、没後50年。
著者(1946〜2011)は映画・文化史家。“小津本”多数。本書は単行本未収録エッセイ。
1 「日本の家族」を描き続けた小津安二郎
2 小津安二郎全作品解説
小津組助監督修業――斎藤武市インタビュー
(平野)
■雑誌 『天然生活』9月号 地球丸 657円+税
特集 本棚は親友
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