週刊 奥の院 7.18

■ 戸田学 『随筆 上方落語四天王の継承者たち』 岩波書店 2300円+税 
 著者は1963年堺市生まれ、作家。2004年上方お笑い大賞秋田實賞、『上方落語四天王』(岩波、2011年)他、編著書多数。
 本書は、「上方落語四天王」と尊称された松鶴米朝春団治文枝の継承者たち(のごく一部)を取り上げる。
「彼らは、師の芸を受け継ぎながら、独自の芸風をいかに創り上げていったのか」
「優れた芸を記録し広く世に知らしめたい」
 戸田の鋭い批評眼によって明らかにされ、綴られる。
目次
1 桂米朝  文化そのものである桂米朝さん 他
2 爆笑王 枝雀と仁鶴  上方爆笑王の系譜――初代桂春団治笑福亭仁鶴桂枝雀 他
3 四天王以後の俊英たち  桂春蝶 桂ざこば 桂小米 桂南光 笑福亭松葉――七代目松鶴 桂千朝 桂吉朝 桂喜丸
4 立川談志  大阪における点景

 上方落語で、初代桂春団治(1878〜1934、実質は二代目らしいが、その存在が大きく「初代」と言われる)の芸は今も受け継がれている。明治末から昭和初めに活躍した人だから、四天王でも最年長の松鶴なら交流があったかもしれない、というくらいでしょう。大量のレコードが残っていて、戸田の考えでは、松鶴米朝春団治春団治門下の露の五郎兵衛、三代目林家染丸も大きな影響を受けている。
「爆笑王 枝雀と仁鶴」より。
 枝雀は米朝の、仁鶴は松鶴の弟子。二人とも「初代春団治に会いたい」と言う。系図上は春団治の系統ではない。
 仁鶴が松鶴に入門して初めての稽古で選んだ噺は春団治のレコードで覚えたもの。松鶴が稽古中に笑ったそう。枝雀も春団治のレコードから得意ネタを仕立て直している。
「(米朝が)復活、あるいは構成整理した数々の上方古典落語に、春団治が構築した落語の工夫がそのまま取り入れられている」のである。その米朝から、仁鶴と枝雀は一緒に並んで『池田の猪買い』を教わった。
 仁鶴と枝雀は生まれ育ちも声の質も違うが、「芸脈としては、初代春団治の幹から派生していた」。それぞれがまた工夫をして得意ネタにした。
 
 米朝の弟子・ざこばと、枝雀の弟子・南光は、松鶴の系譜という印象。
 ざこばについて、松鶴が著書で、「落語がうまいと思いこんでいますが、実はヘタ」と名指した。
「そのかわり、彼は一度舞台へあがったら、もう必死になって文字通り一生懸命演じています。手を抜くということを知らない。この点では、上方落語界でも一番でしょう。……私の好きな人間のひとりであります」
 
 枝雀は1999年に自死
 仁鶴76歳。
 第3章の8名のうち4名が既に亡いという現実。人の世は空しく儚い。惜しいというより、悔しい。

(平野)
 前著『上方落語の四天王』を私は2冊持っている。2冊目は先日買ってしまったばっかりで〜い。