週刊 奥の院 6.10

■ 谷川俊太郎 『ミライノコドモ』 岩波書店 1400円+税 
 装幀 菊池信義
 
未発表作品を含む最新詩集。
 

 ミライノコドモ
キョウハキノウノミライダヨ  
アシタハキョウミルユメナンダ
ダレカガアオゾラヤクソクシテル
ミドリノノハラモヤクソクシテル
コレカラウマレルウタニアワセテ
……

[あとがき]より
 気楽に、発表のあてもなく書く。
……〈未発表〉とあるのはそうしてできた作で、締め切りがないから飽きるまで推敲を重ねられるのが楽しい。
 気楽に書けることに疑問も。
……詩の批評の基準とも言うべきものが見え難くなっていて、好き嫌いで判断するしかないのではないかと思うからだ。実は私自身は詩を美味しい不味いで判断していいと、かねてから考えているのだが。
 詩が好きな人は日本語のグルメだ。添加物の多い言葉は舌を鈍感にしてしまう。詩はとれたての新鮮な言葉をいのちとしているから、メディアに氾濫する言葉からのデトックスとして役立つかと思う。


■ 『kotoba』 第12号 集英社 1333円+税 
特集 夏目漱石を読む  作家がすすめるいま読むべき作品
姜尚中 『こころ』にインスパイアされて    奥本大三郎 漱石の東京を行く
関川夏央 漱石の倫敦体験    嵐山光三郎 漱石の「悪食」を歩く
水村美苗 『續明暗』の理由    島田裕巳 漱石無宗教だった
水無田気流 最初の草食系男子、夏目漱石    黒川創 居心地の悪い旅のなかから
小森陽一 帝国大学と『こころ』    夏目房之介 孫が描く夏目漱石

中島岳志 漱石岩波茂雄 より
 岩波書店の創業は1913(大正2)年、古本屋と自費出版業。茂雄が始めて企画した出版物が漱石朝日新聞連載『こころ』。茂雄は旧制一高時代漱石に学んでいる。友人安倍能成(よししげ)が漱石側近で、彼に紹介してもらって漱石に出版を願い出た。漱石了承するが、

……ところが、岩波は「ついてはうちにはお金がないので、出版費用を出してほしい」と言うのです。漱石は自分が装丁をやるなどの条件で、岩波書店から出すことに決まりました。……

 今なら、「30代の青年がいきなり村上春樹にお願いしに行くようなもの」。
 この出版の成功で岩波の土台ができる。その後も漱石の本をてがけ、死後には全集出版。利益は大きくなかったが、『漱石全集』で得た信用は絶大。
 岩波の出版業界での功績、茂雄の思想(ナショナリストでありリベラリスト)、時代について語る。
 中島は、漱石や茂雄の時代が現代と似ていると指摘する。「坂の上の雲」時代の青年――「一等国になったはずなのに、自分たちが生きているという実感がわかない――と、戦後50年間の価値観の変化の中の青年は同じ「ロストゼネレーション世代」だと。
 

 当時、同じような悩みをもった青年は、極端な超国家主義者になるか、岩波のようなリベラルなナショナリストになるかに分かれたのですが、僕は岩波と同じ道を歩んで行きたいと思っています。

(平野)