週刊 奥の院 6.7

今週のもっと奥まで〜
■ 青山七恵 『快楽』 講談社 1500円+税 
 05年文藝賞、07年芥川賞、09年川端康成文学賞
 二組みの夫婦――空間プロデューサー慎司と耀子、喫茶店経営徳史(のりふみ)と芙祐子(ふゆこ)――でヴェニス旅行。慎司は耀子に徳史と浮気させようと画策している。慎司と耀子の生活に愛はない。彼女の背中に冷たさを感じている。彼女にとって真に性的だった行為はたった一度。その相手は10数年前の徳史だった。彼はまだ思い出さない。慎司の企み、耀子の気持ちに気づいた芙祐子が失踪。3人で探すが、4人それぞれに事件が起きる。耀子のことを思い出した徳史はホテルに急ぐ。ドアを激しくノック。

 金属がこすれる音がして、ドアは不意に開いた。
 そこに耀子の顔を見た途端、彼は彼女を抱いて唇を塞いだ。
……
 開いたドアの向こうに徳史の顔を見た途端、耀子はとうとう待ち焦がれたひとときが訪れたのを知った。
 飛びついてきた彼と唇を重ねた瞬間、耀子は我を忘れて夢中になった。部屋のなかに重く立ちこめていた妄執の煙は、開いたドアから外へたちまち逃れていった。
 口づけは永遠と思われるほどに長く続いた。
 二人の舌は突然籠に囚われた鳥たちのように、一つになった口のなかをやみくもに動いて、互の歯や頬の内側の壁にぶつかればぶつかるほどに、ますます激しく自ら塞いだ出口を求めた。徳史は両手で彼女の頭を抱え、手当たり次第に髪の毛をかき乱した。そして彼女の豊かな髪の奥にひそむ地肌の冷たさを、次々とその熱で犯していった。耀子の首はほとんどのけぞるような急な角度で折れ曲がりつつあった。それでも彼女は、彼の体を押しやるどころか、そのたくましい胴を抱いている腕にさらに力を込めて、彼を二度と離すまいとしていた。背後でドアが締まる音を合図にして、二人は勢いよくベッドになだれ込んだ。そのとき彼女は一瞬だけ、彼の目を見つめた。そこには本物の欲望があった。そしてそこに本物の欲望が映っているなら、彼女の目にもそっくり同じものが宿っているはずだった。……


 慎司が芙祐子を発見してホテルに連れ帰る。彼女のために自分の部屋に薬を取りに行く。二人の真っ最中。恋人の肩ごしに夫を見た彼女は、「自分たちが似たもの同士の夫婦である」と知る。夫が出ていき再び二人きりなるが、彼女の体は熱を失っていく。
「一九九七年の冬の続き、あのときはじけた閃光、紛れもない、快楽、二度と訪れない、真実の瞬間……(略)……しかし訪れたのは、新たな冷たさだけだった。」



うみふみ書店日記 その23
 5月30日 木曜
休み。特になし。
 
 5月31日 金曜
 6月末の人文会ご巡幸連絡、M社Mさんより。昼食会手配の依頼。

 6月1日 土曜
「ふるさとフェア」の後片付け。神戸新聞総合出版センターTさんが手伝ってくれ大助かり。集計速報、売上313冊、約44万9千円。開催期間が前年より7日少なく、数字上はちょうどその分がマイナスだが、同じ日数なら前年クリアできたかはあやしい。
売上冊数のベスト5
1.神戸新聞総合出版 143冊  2.西日本新聞社 22冊  3.京都新聞社 20冊
4.共同通信社 16冊  5.北海道新聞社 13冊

 ABCテレビで青山大介『港町神戸鳥瞰図』が紹介された。売れ行き好調。帰宅後、ビデオ見る。冒頭、【海】サイン会の模様が映る。確かF店長がインタビューを受けていたのだが、カット。

 勝手にGF登録している編集者Yさん来店。ますます美しくおなりで、ドキドキ。
 元町の作家・Nさん来店。主要なフィールドは経営学だが、時折近代史の本を出される。今回は開国直後の日本を歩いた外国人たちの話。後日紹介。

 6月2日 日曜
 「ふるさとブックフェア」返品作業。
 単品売上ベスト5  (1)『神戸市立博物館で楽しむ歴史と美』11冊 (2)ミナト神戸の宗教コミュニティ』10冊 (2)『五国豊穣 兵庫のうまいもん』10冊 (4)『神戸懐かしの純喫茶』7冊 (以上神戸新聞総合出版センター) (4)『ペコロスの母に会いに行く』7冊(西日本新聞社

 ベテラン同僚が図書カード読み取り機の操作を私に訊く。後から気づく。彼は同い年だが、学生バイトからやっているから私よりキャリア長い。それよりも毎日さわってるやんか!?

 6月3日 月曜
 ここでこんなことを書くのは、と思いながらも。
 店売成績が良くない。在庫調整=返品に励む。

 6月4日 火曜
『港町鳥瞰図』、くとうてんの在庫がいよいよなくなる。セーラ編集長が忙しく美しく運んでくださる。
【海】と関係の深い画廊社長の紹介で小説家志望の青年が来店。原稿を読んでほしいとおっしゃる。でもね、私はその任ではない。本を売るために、こういう本ですという紹介しかできない。ちゃんとした編集者とか評論家に読んでもらうべき。お断り申しあげた。

 6月5日 水曜
人文会ご巡幸の際の集まりについてJ堂に連絡。人文会から直接連絡もらったほうが社内的に都合良いそうなので、その旨Mさんにお願いした。【海】はゆるくて、「店長、行ってきまっせー」でOK。

◇ 先週のベストセラー
1.南川高志  新・ローマ帝国衰亡史  岩波新書
2.     神戸ルール  中経出版
3.ヨグマタ相川圭子 宇宙に結ぶ「愛」と「叡智」  講談社
4.村上春樹  色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年  文藝春秋      
5.吉田修一  愛に乱暴  新潮社
6.近藤誠  医者に殺されない47の心得  アスコム
7.江崎美惠子  芦屋スタイル  講談社
8.百田尚樹  海賊と呼ばれた男(上) 講談社      
9.     仕事の御守り  ミシマ社
10. 北方謙三  岳飛伝(五) 紅星の章  集英社

(平野)