週刊 奥の院 5.31

今週のもっと奥まで〜
■ 小池真理子 『Kiss』 新潮文庫 550円+税 
 恋愛小説9篇。
「廃墟」より。
 乃里子はかつて暮した家――誰も住まなくなって「廃墟」になっている――を27年ぶりに訪れる。夫と舅、夫の従兄・治の4人暮らしだった。夫は父の会社を継いだ若社長、仕事仕事で、休日も接待や出張。乃里子にロマンティックな生活はなかった。自然に治と過ごす時間が多くなった。

・・・・・・
 治は、新聞記者として経験したおもしろい話、驚かされる話をしてくれた。むずかしい話はひとつもなかった。乃里子の苦手な経済界や政界の話も、治の話術にかかるとたちまち、聞いてわくわくする芸能ゴシップのようなものと化した。
 風が木立を揺すって吹いてきて、二人の笑い声が風に乗って運ばれた。日が暮れると、夕日があたりいちめんを金色に染めた。
 時折、目と目を見交わして微笑み合った。彼の目の奥に、自分の中で芽生え始めたのと同じ種類の光が宿っていることに気づくようになるまで、時間はかからなかった。
 夫がいなくても、人生は充分に楽しい、ということを乃里子は知った。
(ある日、舅は友人の通夜に、夫は海外出張。二人きりの食事。酒の話から、治が眠れない夜があると言う)
「治さんにも眠れない夜があるんだ」
「そりゃあ、あるって」
「そういう時は何を考える?」
「さあ、なんだろう。乃里ちゃんのことかな」
 ふいに乃里子は、耳朶まで赤く染めあげられていくのを感じ、目を伏せた。「私のことって、何?」
「何、ってわけじゃない。乃里ちゃんのこと全部。元気に料理を作ってる後ろ姿とか。家中に掃除機かけてる姿とか。鼻唄まじりに洗濯物を干している時の乃里ちゃんとか・・・・・・」
「私、悩み事の一つや二つ、いつも抱えてるのよ」
「わかってる。乃里ちゃんは健康で、のびやかで、可愛くて・・・・・・そして、今の俺にとって世界一、いとおしい人だよ」
 つと手が伸びてきて、人さし指の先が乃里子の頬に触れた。指で触れられた部分が火照り、それだけで身体が溶けていきそうになるのを乃里子は感じた。・・・・・・

 同じ屋根の下での関係を隠せるはずもなく、夫は治を殺害して自首、家族は離散。
「廃墟」にはもう何も残っていない。


うみふみ書店日記 その22
 5月23日 木曜
 ゆえあって、延々ブログ準備。
 知り合いから本の注文と問い合わせのメール来ているらしい。メールがまだダメ。許せよ。
 
 5月24日 金曜
「朝日」“ひと”欄、ランドセル俳人・小林凛。6年生になって9ヵ月ぶりに登校再開。最近、いじめっ子の一人が謝ってきたそう。
「仲直り桜吹雪の奇跡かな」
 この子はエライ!

 5月25日(土) 〜26日(日) 写真のみ。

 5月27日 月曜
「朝日歌壇」、憲法の歌たくさん。
 老い進み人の名浮かばぬ母なれど改憲首相と名指しし嫌う (盛岡 菊池さん)
 九が好き憲法九条坂本九第九合唱野球の九回 (新潟 伊藤さん)
・・・・・・

 お別れの電話が2件。
(1)NRのTさんがもうすぐ産休。
いつの間に、誰に断わって作ったんや〜!  って、そこ? 自分で突っ込んでおく。
(2)M社の営業担当Kさん、九州に。

 5月28日 火曜
 K新聞営業さんが「ふるさとブックフェア」ご視察。ありがとうございます。おみやげをいただく。
休憩時間のみんなの楽しみ。私はたいがい最後なんです。私が休憩室に行くと「空き箱」しか残っていない。こういうことはショッチュウです。
死んだ婆ちゃんに「食べもんのことで文句言うたらあかん!」と育てられましたから、自分に当たらないのはいいのです。「残念、終了、ちゃんちゃん」で構わないんです。愛妻弁当で腹一杯になります。八分目という理性はござんせんし、別腹という特殊臓器も装備しちゃあおりません。問題は、なんで「空き箱」だけが残っているのかということ。最後の1個を食った奴(怒)、片付け!
そやけどなあ、「あじゃりもち」やで、おいしいねんで〜。
 その休憩中にGF・T出版のクッスーが来店しているのに、スタッフたちは私を呼んでくれない。ややこしい問い合わせには呼びつけるくせに! 

 気を取り直して。
週刊朝日」でペコロス連載始まる。自費出版でスタートした「認知症の母の“今”と“昔”を息子が描く」漫画。『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社)がヒット。前回の日記で「著者のニックネーム〜〜」と書いた本はこれ。NHK-BSでドラマ(2月、イッセー尾形)になり、今秋映画公開予定(岩松了赤木春恵 ほか、配給「東風」)。

 5月29日 水曜
 明日で退職する同僚がいる。メールしてねと頼む。私、ケータイ不所持、家のパソコンはメール不良ゆえ、店にして頂戴。でもなあ、他人のメールを勝手に見る奴(怒)おるからなあ・・・・・・。

◇ 先週のベストセラー
1.岸惠子  わりなき恋  幻冬舎
2.西原理恵子  スナックさいばら おんなけものみち バックレ人生大炎上篇 角川書店     
3.南川高志  新・ローマ帝国衰亡史  岩波新書
4.      神戸ルール  中経出版
5.森見登美彦  聖なる怠け者の冒険  朝日新聞出版                
6.百田尚樹  海賊と呼ばれた男(上) 講談社      
7.百田尚樹  海賊と呼ばれた男(下) 講談社
8.室谷克実  悪韓論  新潮新書      
9.曽野綾子  生きる姿勢  河出書房新社
10. 村上春樹  色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年  文藝春秋

(平野)
 明日(6/1・土)ABCテレビ 9:30〜10:00 「LIFE〜夢のカタチ〜」、鳥瞰図絵師・青山大介さん登場。 
 サイン会の模様も映るかな。