週刊 奥の院 5.17

今週のもっと奥まで〜 
■ 大石圭 『躾けられたい』 TO文庫 571円+税
 真面目な女子大生・琴音、地味で恋愛経験なし。青年実業家・白石に出会い、特別な関係に。そして、禁断の世界に誘われる。強い屈辱、だが、甘美で魅力的でもあった。
 最初はごく普通だった。

(彼の目をみつめて・・・・・・)
「白石さんは、わたしが好き?」
「好きだよ」
「本当に好き?」
「好きだよ。僕は琴音が本当に好きだよ」
 彼が言い、わたしは両腕で彼にしがみつき、肋骨が浮いた彼の胸に顔をぎゅっと押し付けた。
 そんなわたしの髪を、彼が指で梳くみたいに撫でてくれた。
「実は、琴音・・・・・・君に相談があるんだ」
 わたしの髪を撫で続けながら、白石が言った。わたしは彼の胸に顔を埋めたまま、その声を聞いた。
「相談って、なあに?」
 わたしは彼から顔を離し、また彼の目を見つめた。
「何ていうか、これはあくまで相談で、あの、決して無理強いするつもりはないんだけど・・・・・・、びっくりするかもしれないけど、僕には、あの、シギャクテキな性癖があってね」
(琴音は、シギャクが嗜虐に結びつかない)
「あの、何ていうか、僕にはサディスティックな性癖があって・・・・・・」
「白石さんが、あの、サディストだっていうことですか?」
「あの、自分でもはっきりとはわからないんだけれど、でも、たぶん、あの、そうじゃないかと思うんだ」
(琴音をアルバイトに採用したのは彼女をMと感じたから)
「あの、どうして、そんなふうに思うんですか?」
「言葉で言うのは難しいけど・・・・・・君を見た瞬間に、そう感じたんだ」
 彼がわたしをじっと見つめ、わたしは慌てて彼から目を逸らした。心の中をのぞき込まれているような気がしたのだ。
「それで、白石さん・・・・・・相談って何ですか?」
 わたしは再び彼の目を見つめた。彼はとても優しげに微笑んでいた。
「うん。実はね・・・・・・あの・・・・・・僕は琴音を、あの、躾けたいと思ってるんだ」
「わたしを・・・・・・躾ける?」
 私はギョッとして彼を見つめた。
・・・・・

 琴音は同意して、その世界に入っていく。やがて、白石が余命いくばくもないことを知る。財産は残せないと彼は申し訳なさそうに言った。
「お金などいらなかった・・・・・・」


◇ うみふみ書店日記 その20
 5月9日 木曜
 休み。花壇の草むしりと溝掃除。息子に夏物衣類宅急便、漫画1冊入れて。
 
 5月10日 金曜
 雨。
「朝日」記事。与謝野晶子の作品また発見。大阪・高島屋史料館、顧客向けカタログ「百選会カタログ」。1921年から40年、晶子は顧問を勤めた。着物、帯、工芸品などを題材に短歌453種、詩7編。
 春の月浮び出てくるここちすれクレパス縞を着たる肩より

 仙台Hさんより「仙台編集者が選んだ震災本 50冊+10」フェアの写真がないかと問い合わせ。ブログから取ってもらうしかない。すぐデジカメから消去しているので、お役に立てない。私の作業はブログで完結してしまっている。

 5月11日 土曜
 まだ雨。そのなか妻とお出かけ。映画「舟を編む」。あおいちゃんがきれい!

 5月12日 日曜
 妻と梅田をウロウロ。JR大阪駅の上部ゾーンに初めて行く。「グランフロント」なんて、いつ行くことになるか。お茶を飲むのに、ウメチカの昔よく行った喫茶店を探すが、ない!
 友人夫妻と晩御飯。

 5月13日 月曜
 ブログで紹介した本を他県の方から注文いただく。本代より送料・手数料のほうが高くて恐縮。
本の雑誌』で、作家さんに図書カードをあげてどんな本を買ったか披露するコーナーがある。6月号の作家はほとんど本屋には行かないという人で、地元の本屋事情も知らない人。そんな人、選ばんでもええのに! 本屋好きの書き手はいっぱいいるし、なんならビンボーな編集者や営業マンにあげてほしい。超ビンボーな書店員でもいいじゃないか。本についての賢くておバカな話を読みたい。

 5月14日 火曜
「朝日」記事。江戸川乱歩賞、竹吉優輔「ブージャム狩り」。伊藤整賞、辻原登『冬の旅』(集英社)、三木卓『K』(講談社)。
 雑誌の関西本屋特集で、大阪の編集集団Oさんから【海】取材のアンポンタン、アポイントメンタルジャーニー、ちゃうなあ。ありがとうございます。
 先週の日記で「スタッフT」と書いたら、誰か特定されると苦情。「T」なんて、「トルストイ」もいれば「天童よしみ」もいる。そういうことでは、ない? 「タイガー服部」だっている。ちゃう!

 5月15日 水曜
 書名に著者のペンネームがついている本を買ってくださる方が、どういう意味かと問う。その単語がペンネームであることもまだご存知ないだろう。ペンネームの由来を説明することにもなるし、今読もうとしている人にお教えするのはいけないと思うので、「読めばすぐわかると思います」と答えた。私は不親切か?
 久しぶりのご来店、住吉のおじいちゃん。差し入れにお饅頭たくさん。ごちそうさまです。
 PR紙「海会」の原稿締め切り。

◇ 先週のベストセラー
1.村上春樹  色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年  文藝春秋
2.東野圭吾  夢幻花  PHP研究所
3.木皿泉   昨夜のカレー、今日のパン  河出書房新社
4.白石一文  快挙  新潮社
5.百田尚樹  海賊と呼ばれた男(上) 講談社                
6.松岡享子訳 三本の金の髪の毛 中・東欧のむかしばなし  のら書店
7.葉室麟   陽炎の門  講談社
8.百田尚樹  海賊と呼ばれた男(下) 講談社      
9.林真理子  野心のすすめ  講談社現代新書
10. マーク・ピーターセン  実践 日本人の英語  岩波新書

(6)、【海】では時々児童書がランクイン。