月曜朝礼新刊紹介

【文芸】 クマキ 
■ 椎名誠 『ぼくがいま、死について思うこと』 新潮社 1300円+税
「帯」が書影には写っていないが、「69歳。」の文字と椎名の写真。「椎名誠」=元気で明るい爽やか笑顔、というイメージと違う表情。文章も堅い。
「死」について考えるきっかけは、2年に1度の人間ドック。

・・・・・・嫌だが仕方がない。孫ができて、しきりに可愛がっていると「健康で生きていくことに責任を持つ歳になったのだから」と妻はぼくに言い、彼女に連れられて強制的に人間ドックに行かされるようになったのだ。妻に牽かれて人間ドック。・・・・・・

 γ‐GTPと尿酸値が高い、脳内のところどころに小さな出血の跡。他は異状なし。成績表を主治医に見せる。

・・・・・・「日頃の生活を見ていると、この程度の生活習慣病で済んでいるのが信じられない」と悔しそうに言った。
 さらに主治医は言った。
「あなたは自分の死について真剣に考えたことはこれまで一度もないでしょう」
 図星だった。
 この歳(六十七歳=二年前)で、自分の死について真剣に考えたことがないのはバカである、と言われているような気がした。・・・・・・

 身近な人たちの「死」、旅の途中遭遇した異文化の「死」、これまでの危ない体験、自らの「死」の予感、過去の「鬱」も告白する。
 あとがきでは、いじめ問題、自死尊厳死にも言及。
 最後に親友の「死」も。一度は克服(モーレツ回復)したガンが再発した。

・・・・・・
 ぼくが何度目かの見舞いに行ったときは、すでにホスピス系の病院に入っていた。
 親しい仲間三人で見舞いに行った。掠れるような声だったが、彼はまだ話はでき、ときおり笑顔もあった。一時間ほど会話し、帰ることになった。そのときNの裸足の足がベッドの布団の外に出ていることに気がついた。
 まだ寒い季節だ。
 ぼくは彼の足の裏をくすぐってやった。
 早く、例の奇跡のモーレツ回復力で戻ってこいよ、というぼくなりの合図のつもりだった。
 Nは、そのときヘンに真顔になってぼくに右手を差し出し、握手を求めてきた。
 手を握ると、重病人のわりにはいやに力のこもった握手であった。今思えばあれがN流の「別れの挨拶」なのだった。
「友よさらば」の。・・・・・・


【芸能】 アカヘル
■ 『SPT (Setagaya Public Theatre)』 09 (公財)せたがや文化財団 世田谷パブリックシアター発行 工作舎発売 952円+税 
 世田谷パブリックシアター野村萬斎が芸術監督を務める。本書も野村が監修。
特集 本棚のなかの劇場――「劇的なる本」235冊
 演劇人65人が「演劇的発想を刺激する」本を3冊ずつ選ぶ。
 演劇づくりの血肉になった本/とにかくこれを読まなきゃ始まらない、と思う本/戯曲執筆のバイブル的本/制作中、行き詰まった時にひらいている本/いつか舞台で取り上げてみたい本/手ごわいけれど格闘する価値のある本/役者に読んでほしい本・・・・・・
 演劇書だけではなく、文芸、ノンフィクション、漫画、実用書、ビジネス書など、ジャンルにこだわらず選書。
 他に、
「演劇ライター・ジャーナリストの本棚」  3冊×6人
「書店員の本棚」 ブックセラーが選んだ5冊×5書店  青山ブックセンター六本木店、紀伊國屋書店新宿本店、三省堂書店神保町本店、B&Bジュンク堂書店池袋本店。

(平野)