週刊 奥の院 5.10

今週のもっと奥まで〜
■ 『禁書〈色〉』 徳間文庫 619円+税 
 官能小説家8人の書き下ろし。
 花房観音「葵」
 黒川は10数年ぶりの京都訪問、かつて結婚式をあげた神社。元妻の姉で大学の同級生だった葵が待っていた。ふたりの仲が原因で離婚したのだった。

・・・・・・
「黒川くんはずるいから、私のせいにしたいんやろ。確かに誘ったのは私やけど――覚えてる? 『ずっとこうしたかった』って言うたやん。私が黒川くんと、ずっと寝たいと思っていたように、黒川くんだって、そう思っていたくせに。今だって――」
 葵が黒川の身体の上に覆いかぶさるように抱きついてきた。力が入らない、払いのけることができない、あの時のように――。
 葵の唇が重なり、柔らかい感触に呑みこまれたかのように、その舌を受け入れてしまった。懐かしい花のような香りが鼻腔を擽る。
「黒川君は、ずるい。卑怯や、昔も今も」
 鳴き声のように、唇を離した葵はそう言って胸に顔を埋めた。
「そうだ、俺は――ずるい――ずるくて弱い――」
 胸が詰まる。そうやって逃げて流されて傷つかぬよう傷つけぬように生きてきたから、こうなってしまったのではないか。もう、そんなことはやめないと――。
 黒川は葵の頬に手をやる。冷たい感触があった。泣いているのか。
「着物の脱がせ方がわからない」
 そう言うと、葵は表情を緩める。
「自分で脱ぐから――」
 葵は立ち上がり、正面の帯紐をといた。しゅるしゅると帯がとけてしたに落ちていく。伊達締めをとくと、流れるように着物が葵の肩から落ちてゆく。薄桃色の長襦袢を引きとめている腰紐もぬいた。・・・・・・
「こうして、私が自分から脱ぐようにして――やっぱりずるいわ」
・・・・・・

■ 『KOBE ポートウォッチングマップ 第7版』 神戸港を考える会 300円税込
 ミナト神戸を愛する人々が、歩いて作った手作りの地図。港と近代洋風建築を中心に。JR線以南、ポートライナー以西、JR神戸駅以東。 
 

◇ うみふみ書店日記 その19
 
 5月2日 木曜
 休み。ン年振りの床屋。何せ明日は姪っ子の“けつこんしき”。彼女の家族には(当然我が家にも)一昨年、昨年と悲しいことが続いたのだけれど、今年は良いことが。
禍福は糾える縄の如し。
 友人から電話。出不精の私は「うつ」ということになっているらしい。
「遠出は無理、梅田くらいなら何とか……」と他の友人たちに説明してくれている。そのとおりなんですが、ちょい問題。
 娘のおみやげ。タウン紙「かんだ」に元アクセス&東京堂のHさん寄稿。もちろんGF。

 5月3日 金曜
 大阪で姪の結婚式。
 昔、友人――幼稚園から同級生――の結婚式も憲法記念日だった。新婦のおじい様が「本日は新しい憲法が施行された記念すべき日であります。この佳き日に……」と挨拶されたことを覚えている。
 その佳き日に、私が紹介している本は、情けなくも……、叔父、ほんまにアホです。

 5月4日 土曜
 バイト君が出勤12時なのに、時間を間違えて1時間遅れ。おじさんの腹の虫はすっかり「12時メシ」になっていたので、なだめるのがたいへん。

 M社Mさんの日記定期ファックス到着。6月末「人文会御一行様」関西巡幸予定。
Mさんの元先輩書店員氏の話。その苗字がつく「〜棚」で有名なIさん。Mさん曰く、
「コーヒー一杯で相手かまわず3時間しゃべる。ジャズの話になると5時間しゃべる。敵にするとやっかいだが、味方にするともっとやっかいなひと」
できることならお知り合いにならずにすませたい。

 5月5日 日曜
 連休で観光客が多いのはいいのだけれど、スタッフTが言うには、「トイレットペーパーの補充量と売り上げが比例しない!」。
トイレと道案内が役目。
 スタッフ某(本人休み)の親類さんが来店、「いつもお世話になって。迷惑かけてませんか?」のご挨拶。
私、素直なので、「いえ、まあ、その、はい、かけられてます……」。

 5月6日 月曜
 連休最終日はたいていヒマ。返品作業が進むこと。
 周防大島みずのわ出版」より「島の版元つうしん Vol.1」到着。

 5月7日 火曜
 作家Sさん、ご家族と来店。いつも気さくにお話してくださる。勝手にGF登録。

「朝日」夕刊一面で「本をたどって」が始まる。第1回はブックデザイナー・杉浦康平さん。
「本をつくる輪が社会のなかにあって、そこにデザイナーもいた。デザインは、中身があって初めて生まれる。おむすびを一番おいしくする海苔みたいなもの」

 5月8日 水曜
 2F海事書ゴットが社用で外出中に問い合わせがあり、さっぱり分からず右往左往しているうちに、ゴット帰社でセーフ。

◇ 先週のベストセラー
1.村上春樹  色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年  文藝春秋
2.百田尚樹  海賊と呼ばれた男(下) 講談社
3.      同上      (上)
4.マーク・ピーターセン  実践 日本人の英語  岩波新書
5.ヨグマダ相川圭子  宇宙に結ぶ「愛」と「叡智」 講談社                
6.      神戸ルール 中経出版
7.近藤誠   医者に殺されないための47の法則  アスコム
8.      神戸市立博物館で楽しむ歴史と美  神戸新聞総合出版センター
9.曽野綾子  人間関係  新潮新書
10. 村井康彦  出雲と大和  岩波新書

(平野)