週刊 奥の院 4.28

■ 柳家喬太郎 『落語こてんパン』 ちくま文庫 780円+税 
 古典も新作も面白い。1963年東京生まれ。大学卒業後、書店員という経歴。89年柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。
 本書は古典落語50席を語るエッセイ。季節に合わせた作品の解説とエピソード、先輩・同期たちの演じ方にも言及。単行本は09年ポプラ社
 夏の噺から。「青菜」。
 植木屋さん、仕事を終えると旦那がご馳走を用意。鯉の洗いに柳蔭。青菜を出してあげようと夫人に言いつけるが、生憎なくて……。
(夫人)「鞍馬から牛若丸がいでまして、その名を九郎判官」
(旦那)「義経義経
 というやりとり。植木屋が不思議がる。隠し言葉で「青菜はない。菜は食ろうた」。それを受けて「了解、よしよし」。
 植木屋、長屋に帰って、女房と友だち相手におからと焼酎で再演……。
「典型的なオウム返しの噺で、長屋物の名作だ。大師匠小さんのはホント、面白かったなぁ……」
 この噺にまつわるエピソードはサラリーマン時代。
 同僚Yとは大学・学部も同じだが、就職して知り合った。喬太郎落研出身と知り、「青菜」が面白い、大好きと言っていた。落語家になってから会うと、 
 

 「なぁ、『青菜』覚えて演ってくれよ」
 と言われた……ような気がする。
 僕自身、いつかきちんと習って演じたい大好きな噺だが、そのときはぜひYに聴いてもらいた。だけどあいつも、しばらく前に辞めてしまったらしい。なんとなくずっと連絡をとらずにいたら、僕も彼の連絡先が分からなくなってしまった。
 お〜いY、もしこの文章を読むことがあったら、俺が出てる寄席にフラッと遊びに来てくれい。……

 と、呼びかけた。単行本が出て、Yさんと連絡がとれ、一杯やれたそう。めでたし、めでたし。
 文庫化にあたり、北村薫と対談。なかなかチケットが取れないほどの人気だが、本人は冷静。

(北)……高座で「今日は古典をやればよかった」なんて言われることも結構ありますけれど……。
(喬)それはネタというかギャグですね。僕は欲張りなので、本当はいけないんでしょうけれど、新作もやりたいし古典もやりたい。噺家にならないで死んだら後悔すると思ったので噺家になったわけですから……。べつに名人になろうとも、後世に名を残そうとも思っていない。ただ、僕が死ぬ時に「ああ、面白かった」と思い残すことがないようにやりたいだけなんですね。……

◇ 全国新聞社 ふるさとブックフェア 各社の本紹介 その5
■ 北日本新聞社
『天空にかける橋』 952円+税  立山トンネル開発をマンガで。
『とやま電車王国』 1800円+税  JR各線、富山地方鉄道黒部峡谷鉄道、ケーブル、トロッコ、市電にライトレール。それから万葉線のネコ電車。

■ 北國新聞社
加賀百万石。お城、伝統工芸、文学……。
『金沢の芸妓さん』 1619円+税  芸ともてなしの心。三茶屋街探訪。
井上雪 『金沢の風習 復刻版』 1238円+税  1978年(昭和53年)初版。真宗大谷派坊守俳人・作家が綴るふるさとの風習50編。

(平野)
本日(27日)、西宮で志らく喬太郎師匠の落語会。夫婦漫才しながら。