週刊 奥の院 4.19

■ 澁谷知美 『立身出世と下半身  男子学生の性的身体の管理の歴史』 洛北出版 2600円+税  
1972年生まれ、東京経済大学准教授、教育社会学社会学。著書、『日本の童貞』(文春新書)、『平成オトコ塾」(筑摩)他。

 高校生ぐらいの少年にたいして、なぜ大人はセックスを奨励しないのか。本書はそうした素朴な疑問からはじまっている。勉強しろとか、運動しろという親や教師は山ほどいる。だが、セックスしろ、と少年にすすめる親や教師はいない。なぜなのか。
 子どもができたら困るからという答えは却下である。避妊の方法もいっしょに教えればいいからである。勉強や運動にくらべてセックスは重要ではないからという答えも却下である。セックスという行為を重要なものと考える人は多いからだ。……

 なぜオトナはセックスを奨励しないのか? 澁谷は資料をたぐって1890年代の言論界に行き着く。

「そこでは、教師や知識人が必死になって、性はおそろしいものだ、近づくべきではないと彼らに語りかけていた」
 警察、マスコミ、医学界、学校では身体検査にパンツ脱がせて性病チェック。
 大人たちはどのようにして少年たちの性を管理しようとしたのか? 少年の性や身体をどのように見ていたのか? 澁谷の10年にわたる研究。索引含め605ページの大著。

序章  課題と方法  男性の(性的)身体史先行研究 
第1章 立身出世と性的行為の非両立  木下廣次の「籠城演説」 福澤諭吉の「品行論」 徳富蘇峰の「非戀愛」 ……
第2章 「学生風紀問題」にみる青少年の性の問題化  一八八五〜一九一二年の『教育時論』記事を中心に
第3章 「男らしい」人生への誘導  性教育の登場  性教育における花柳病言説  禁欲を阻む契機としての「不潔な交渉」
第4章 M検と男子学生  花柳病検査としてのM検  M検の実施頻度の少なさ ……
終章  まとめと考察  「生産する身体」と「性的身体」がせめぎあう土壌としての男性身体

 男性には「性的身体」=セックスする身体と、「生産する身体」=働く身体という二重性が科せられた。男性は国家のために働くこと、女性は「再生産」――家庭に振り分けられた。男性は生産に従事し、そうすることが「立身出世」につながる、それが「よきこと」。
男性には次世代の労働力を「再生産」する役目もある。

……
 基本的に「性的身体」は「生産する身体」に従属している。……なによりも生産活動が重要なものとしてあったからである。立身出世に国づくり、そして、それを可能にするための勉強。登楼や男色や恋愛などの性的活動は、これら生産活動を邪魔するものとして排除された。

 男性身体はこれからも二重身体を生き続けなければならないのか?

 そもそも、「機械」とは異なる「身体」というものが再生産領域的な存在なのだから、「生産する身体」から解放してやるのが適当であろう。

 カバーの絵、高畠華宵「春光」。


 うみふみ書店日記 その16
 4月11日 木曜
 高校教科書販売最終日。んー、お金を持って来ていない生徒多数。
 山の中。校門を出たとたん大粒の雨。タクシーを待つ間、濡れオヤジ。元町に戻れば晴れ、のちやっぱり雨。
 知人パソコン教室の先生に家のパソコンをみてもらう。
 あと「奥の院」。

 4月12日 金曜
 村上春樹新刊、朝からニュース報道。首都圏の大書店では午前零時から販売開始。お祭り騒ぎ。
【海】入荷数はトーハン神戸支店では最大数、らしい。
 一人出版社N社Sさん取材に。7月予定『本屋図鑑(仮)』で【海】も紹介してくれるそう。
土橋とし子」展覧会初日。「ちびまるこちゃん」の同級生で、アニメでもときどき登場する「としちゃん」。私、よく知らなくて、「まるこ」フリークF店長情報。
 岐阜・女子の古本屋Hさん(GF)にラブラブ電話。

 4月13日 土曜
 午前5時33分頃、淡路島地震発生。TV速報では神戸「震度4」(あとで中央区は3と判明)、震源地淡路は「6弱」。横揺れで、かつての大震災ほどの揺れではなかった。でも、怖い。また来たか〜! と思った。
【児童】Tより電話、早めに出社せよと指令。何せ、私、徒歩15分。Tは新幹線に乗るとのこと。
 街は平穏。店、面陳の本が10冊ほど落下。
 JR不通、私鉄遅れ。皆が来るまでTと「阪神・淡路」話。
 F店長、いつの間にか出勤。どうやって来たのか? 前夜沈没して近所に宿泊という噂だが、実は新幹線出勤。
「春樹本」、早くも2刷り入荷。

 4月14日 日曜
 休み。妻と買い物。ゆっくりブログ準備。
 あ、また「海会」締め切り。
「春樹」、夕刻に売り切れた由。

 4月15日 月曜
 毎週月曜朝礼では各担当者が新刊を紹介する。本日はアカヘルと私のみ。新刊・注目本ないのかい? 
「ふるさとブックフェア」が徐々に到着。延勘条件のはずが注文扱い。伝票切り替えてもらわねば。
 荒蝦夷Hさんから電話。共同通信取材「震災フェア」が「河北新報」掲載。
「朝日」夕刊、三國連太郎14日死去。

 4月16日 火曜
 ボストンマラソン爆破事件。
 朝礼、社長談。【海】出版近所の取次会社O屋がビル売却して事務所機能のみに。昨年のT社に続いて。
 東京のフリー編集者Uさん(もちろんGF)からハガキ。「奥の院」の感想。

 4月17日 水曜
 私が無理やり引き戻したバイトIさん、就職決定でいよいよお別れ。
 去年の卒業生もそうだったが、学生さんの就職、たいへん。バイトさんたち大半が3回生で、ローテーションやりくりにまた「ストレスハゲ」が……、そうそう、私はできても変わらんのでありました。

◇ 先週のベストセラー
1.村上春樹  色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年  文藝春秋
2.近藤誠  医者に殺されない47の心得  アスコム
3.     神戸ルール  中経出版
4.百田尚樹  海賊とよばれた男(上)  講談社
5.畠中恵  つくもがみ遊ぼうよ  角川書店
6.百田尚樹  海賊とよばれた男(下)  講談社
7.高峰秀子  旅日記 ヨーロッパ二人三脚  新潮社
8.山本一力  五二屋傳蔵  朝日新聞出版
9.岸惠子  わりなき恋  幻冬舎
10.三浦しをん  舟を編む  光文社


(平野) すまぬ。「奥まで〜」は紙版のみ。