週刊 奥の院 4.14

■ 山本芳明 『カネと文学 日本近代文学の経済史』 新潮選書 1300円+税 
「赤貧の文士から、億万長者の文化人へ、文学で食うための苦闘の100年」(帯)
 1955年千葉県生まれ。学習院大学教授。著書、『文学者はつくられる』(ひつじ書房)他。
 テーマは、「文学は、いつから食える職業になったのか――。」
 著者の問題意識は、エミール・ゾラの言葉に出会ったことから。
 作家は自分の人格と思想の肯定を何に負っているのか?

……
疑いもなく金銭にである。金銭、すなわち自分の作品によって正当に得られた収入が、あらゆる屈辱的な庇護から彼を解放し、かつての宮廷づき大道芸人やかつての控えの間の道化を、自由な市民、すなわち己のみにしか依存しない人間としたのである。……すべてを言い得るために自由であらねばならない我われ作家にとって、金銭は勇気であり威厳である。金銭あればこそ我われは、世紀の知的指導者、つまり唯一可能な貴族たり得るのである。……

 日本の小説家が「知的指導者」と自負するにふさわしい経済力をもつことができたのはいつか? 著者は最初に結論を言う。
「1919年、大正8年」
 岩野泡鳴の日記が「文学の経済的な変動を明らかにしてくれる格好の資料」と、彼の収入の変化をみる。
 大正2年、年収917円40銭。3年、1436円50銭。4年、1308円45銭。5年、698円80銭。6年、827円70銭。7年、1380円10銭。8年、2877円85銭。9年(4月まで)1490円50銭。
 8年12月31日の記述では「一番活動した年……、収入は印税も加えて4500円あまり」ともある。

……
文学市場が活性化し、小説家が経済的に成功して憧れの職業として認知されるという社会現象が起こったとすれば、この時が初めてだったからである。……


1.大正八年、文壇の黄金時代のはじまり  あがる原稿料、売れる単行本  変わる出版販売システム
2.文学では食べられない!  作家と報酬との極めて遠い関係  試された啄木の「文学的運命」 ……
3.黄金時代の作家たち
4.円本ブームの光と影
5.文学で食うために
6.黄金時代、ふたたび
 日記、書簡、随筆に残された作家たちの記録から、近代文学史を「経済史」の観点から検証する。

(平野)
「三文文士」なんていう言葉がついこの間まであった。現在でも「筆一本」で生活できている作家は少ないだろう。

◇ ヨソサマのイベント
■ 不忍ブックストリート 
不忍ブックストリートweek  4.20(土)〜5.6(月)
一箱古本市  4.27(土)&5.3(金)
不忍ブックストリートMAP」配布中。

◇ 大阪編集工房ノアのPR誌「海鳴り 25」が届いています。お早目に。 
 大谷晃一、庄野至山田稔、貞久秀紀、萩原健次郎、大塚滋。
 後半は「杉山平一」追悼に代えて。