週刊 奥の院 3.28

■ 石田千 『役たたず、』 光文社新書 780円+税 
 1968年福島県生まれ、東京育ち。踏切エッセイで有名。小説家としても2回連続芥川賞候補に。本書は、PR誌『本が好き!』と『小説宝石』に連載したエッセイ。
 書名の「、」は何だろう。(帯)に「役たたず、されど友あり ビールあり。」とあるので、あとを付ければいいらしい。
 役たたず、金はないけど 春爛漫。
 役たたず、教科書運ぶ アリとなる。

「三段めの混沌」より。
 幼少の頃から母上にいわれ続けている。「いいかげんに、かたづけかたをしなさい」。東北の方言らしい。
 朝きちんと削って筆箱に入れた鉛筆が学校から帰ってくると1本も入っていない。鉛筆も消しゴムもとりあえずランドセルに放りこんでしまう。母上、「やちゃくちゃない」とまた小言。

……なにをするのも、みんなに追いつくのにやっとでいた。教科書と黒板をかわるがわる見て、ようやく鉛筆を握ればすぐに時間切れで、休み時間になだれこむ。授業ばかりか給食の居残りも毎時間のことだったから、落ちついてつぎに備えるいとまはない。……

 机の上も当然同じ。
 いまだに、「しまって、ならべて、整える」が下手。

……きゅうなお客があると、おおあわてとなる。このごろは、大風呂敷をなん枚も用意して、えいっとくるんで押入れにかくす。じぶんのアパートで泥棒のようになっている。

 アパートには小間物を入れる引き出しがあちこちにある。一段・二段は日ごろ使うもの。整頓されている数少ない引き出しでさえ、「三段め」が怪しい。
 パソコン用CD,MDを聞く機械、前に使っていた携帯電話とその説明書、からまりあったイヤホン複数、名詞、友だちの子どもの写真、宴会場の地図、父親の旅みやげ、ボタン……、さらに、綿ぼこり、しおり、はんこ、絵はがき、クリップ、自転車の鍵。そして、冷蔵庫にも「秘境の氷山」。
 四十路なかばとなって、「かたづけかたの意味がわかってきた」。
 本でも、洋服でも、CDでも、冷凍食品でも、「愛着未練の大終結」。ひとつひとつを検証して「役にたつ・たたない」、その判断を決めかねる「あいまいな範囲」を、丸ごと切り捨ててしまえばいいというものではない。引き出しは「興味や知識のたとえ」にされる。

……引き出しには、その歳月のかけらがさまざまはいっている。こんにちまでいちども整頓せぬままにしていたから、肝心なときに開かなかったり、あるはずとあけたらからっぽだったりする。……
 いつかへの備えは、未来へのほのかな期待で、若い力があってこそのものだった。けれども過不足なき明快は、年寄りの悟りの聖地、さいごの楽しみの場所に、まだまだとっておかなくてはいけない。
 ないないとかきまわす。たしかあったはずと思い出す。見つからなければ、あきらめたふりをする。それでもしつこく、記憶をたどり、かかえている。青春は、そんなごちゃごちゃが醍醐味なのにと思う。
 まだ若く、浅くうすい見聞でいるひとが机を片づけても、孤独しかのこらない。自分の身のまわりをきれいにしたいために、身近なひとにあれこれ押しつけ、知らぬふりもしかねない。面倒をだれかに押しつけるなら、押しつけられる覚悟もいる。

「かたづけ」から「青春論」になった。開き直った。引き出しの数は増えては減り、なかみも増えたり減ったり。
 「生きるうち、いつまでも、からっぽにならない」

 役たたず、仲間見つけた 新学期。
(平野)
ろくでなし、穀潰し、能無し、厄介者……、キャリアが必要。
 役たたず、年季がいるのだ 新入りよ。