週刊 奥の院 3.26

■ 高橋克彦 『東北・蝦夷の魂』 現代書館 1400円+税
(帯)

古代から中央政権に蹂躙され続けた東北。 
阿弖流為×坂上田村麻呂
安倍貞任・藤原清経×源頼義
藤原泰衡×源頼朝
九戸政実×豊臣秀吉
奥羽越列藩同盟×明治新政府

5度の侵略戦に敗れ、奪われ続けた資源と労働力、残された放射能
しかし「和」の精神で立ち上がる東北人へ、直木賞作家からのメッセージ。


序幕  追われる人々   第一幕 追われたのは出雲から
第二幕 失ったのは平和な楽園   第三幕 失ったのは豊かな共同社会
第四幕 失ったのは豊かな資源   第五幕 切り裂かれた心
第六幕 失ったのは誇り   終幕  新しい世界を拓く東北の魂
 高橋は釜石市生まれ。ミステリー小説、浮世絵研究、東北を題材にした歴史小説も。
現在内陸部の盛岡市在住で、被害は微々たるものだが、大震災後は連載を休み、短編も書けなくなった。
 同じ岩手県に暮らす人々が苦しんでいるときに、大震災に一行も触れることのない別世界の物語を書くことは、「冷たく突き放している」ように思われた。薄っぺらな作品は迷惑、最低1年は筆を執らないと決めた。「喪に服する気持ち」。本書もインタビューをまとめる形になる。
 序章より。 「リーダーの条件とは何だろうか?」
 震災を経験して、新しいリーダー像について考えた。頭脳とか行動力ではなく、「何故か自然と輪の中心にいる人――なんだか頼りない奴だけど、でも、あいつがいるといいよね――そんな人が、これからリーダーになっていくのではと思っている」。
 高橋が東北史で取り上げたリーダーたち。
『火怨』阿弖流為(あてるい)、「リーダーとは共に戦う兵士たちに郷土に対する思いをきちんと伝える人間」。自らの命と引き替えに戦いを収めようとした。
炎立つ藤原清衡、戦火のなかで育ち、肉親を失い、身内と争い、妻子まで亡くした。源氏とも戦った。奥州の支配権を獲得して、
……「もう戦さはたくさんだ」と思ったはずだ。(犠牲者の)鎮魂を願ってもっとも激しい戦場でもあった平泉に現世浄土を築こうとしたのだ。

 その平泉がユネスコ世界遺産に登録される。一度登録延期になって、高橋は諦めていた。京都・奈良の借り物ではないか、平和な都市国家が東北の辺境にあるはずがない、という理由だろう。史料もない。喜ばしい結果となったのは「被災地の人々の言動によるもの」と書く。

……自分が苦境にありながら他者を案じる優しさ。ともに手を携える温かな心。苦難に無言で耐える強さ。上も下もない平等のまなざし。あらゆる生き物に対する愛情。それらがメディアを通じて全世界に伝えられた。岩手、宮城、福島、ことごとくが清衡の拵えた平泉文化圏の中にある。世界は知ったに違いない。清衡の拵えた国は滅びたが、その心は今も変わらずその地に暮らす人々の胸の中に残されているのだ、と。そして史料よりも確かな理想国家平泉の存在を確信したのだ。…… 

 広大すぎる被災地は復興ままならない。

耐える強さが大切なのは、明るい未来があってこそのことである。
今日からは前に進む強さに変えていかなくてはならない。
明るい未来の設計図を頭に描いて、だ。

(平野)
◇ ヨソサマのイベント
『ハロー! やながせ 2013』 第1回イベントテーマ 本とまち http://helloyanagase.com/
4.1(月)―30(火)  岐阜市柳ケ瀬商店街&周辺の参加店
● やながせ一箱古本市  4.13−14  
● ハロー! やながせの人々
● 「柳ケ瀬BOOK」 刊行