週刊 奥の院 2.23

■ 高野秀行 『謎の独立国家ソマリランド  そして海賊国家プントランドと戦国国家ソマリア』 本の雑誌社 2200円+税 
 1966年東京生まれ、ノンフィクション作家。早稲田大学探検部時代に『幻獣ムベンベを追え』(現在集英社文庫)でデビュー。2006年『ワセダ三畳青春記』(現在集英社文庫)で第1回酒飲み書店員大賞。元・タイ国立チェンマイ大学日本語講師。
 誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も知らないものを探す。それをおもしろおかしく書くことをモットーに、多くの作品を生み出している。 (本書の著者プロフィールより)
 本書で取り上げるのは、アフリカの「ソマリランド共和国」。アフリカ東端、アラビア半島南対岸、ソマリア国内の独立国(?)。ソマリアは内戦で無政府状態。「無数の武装勢力に埋め尽くされ、戦国時代の様相」だが、ソマリランドは10数年平和を維持している。国際社会では「国」と認められておらず、「武装勢力の一部が巨大化して国家のふりをしている」という説もある。内戦状態の国で、独立と平和を保つ「国」。

 まさに謎の国。未知の国家。地上の「ラピュタ」だ。
「謎」や「未知」が三度の飯より好きな私の食欲をそそらないわけがない。

 幻の国「ラピュタ」と戦国の「北斗の拳」になぞらえて、不思議の国を取材する。
 少ない情報のなかから、先達の取材を見つける。NHK取材班「アフリカ21世紀」(2002年、NHK出版)と朝日記者松本仁一カラシニコフ』(04年、朝日新聞出版)が、ソマリランドの治安維持を賞賛している。部族長老によって武器が回収された。
 英語のウィキペディアでは、ソマリランドプントランドが紛争中らしい。

――なんだろう、これは……。
 と私は思った。
 私は「謎の国家」や「自称国家」にはなじみがある。二十代の半ばから十年以上、ミャンマービルマ)の少数民族の地域に通っていた。アジアで最も「未知の部分」が残されていたからだが、そこでは「シャン」民族の独立運動を手伝ったり、「カチン」民族のゲリラ支配区を旅したり、「ワ」族のゲリラ支配区に半年以上住み込んだりした。…… 
 未知や謎を追っていくと、国連で認められているような国家の中央政府の力が及ばない地域に行きがちで、そういう地域には「自称国家」や「国家もどき」が出現しやすいのである。……
 一体ソマリランドとはファンタジックなラピュタか、それともウサギの皮をかぶったライオンか。
結局、自分の目で見てみないとわからないという、いつもの凡庸な結論に達したのである。 

 それで、ビザはどこで取得できるのか? から始まった。
第1章 謎の未確認国家ソマリランド
第2章 奇跡の平和国家の秘密
第3章 大飢饉フィーバーの裏側
第4章 バック・トゥ・ザ・ソマリランド
第5章 謎の海賊国家プントランド
第6章 リアル北斗の拳 戦国モガディショ
第7章 ハイパー民主主義国家ソマリランドの謎
プロローグ 「ディアスポラ」になった私
 
 09年、11年ソマリア訪問で本書の材料は集まった。12年も2度、彼の地に帰った。

 ソマリは面白い。知れば知るほど、新しい真実が浮かび上がる。また、日本には他に専門家がいないことが「誰もやらないことをやる」という私のポリシーに合致する。

 激しい戦闘にも遭遇した。「北斗の拳」的場面を体験した。
 ソマリの友人とやりとりし、在日留学生と親しくなり、「日本にいながら、ソマリの一員でありたいと願う」。

……完全なディアスポラである。自分がディアスポラになってみたら、なぜ彼らが決して豊かでない生活の中から毎月、日本円で何万円ものお金を仕送りしつづけているのかやっとわかった。
「家族思い」とか「氏族の結束が固い」だけではない。
 忘れられることが怖いのだ。
 いくらカネがあろうと、いい仕事についていようと、所詮は「本場」を離れた人にすぎない。それだけではソマリ世界内で無価値なのである。だから、家族や親戚に頼まれれば、あるいは頼まれなくても、せっせと仕送りし、なるべく頻繁にソマリ世界に帰省しようと努める。

 高野も送金している。向こうに行けば、彼らが面倒見てくれる。
 高野は「ディアスポラ」として提言する。
 ソマリランドを認めてほしい。独立国家として認められないなら、安全な場所として認めてほしい。安全とわかれば、技術・資金の援助が来るし、ビジネスも始まる。ソマリランドはトラブルが産業として成り立っていない珍しい地域で、「平和になり、治安もよくなれば、カネが落ちる」というメッセージは海賊対策にもなる。
 年表を含め500ページ超の大著。
(平野)
 恥ずかしながら、天下の「朝日新聞」夕刊(大阪本社版)2・22の「本屋の棚心」。
 川崎洋『悪態採録控』(ちくま文庫)を紹介するフリをしながら、いつものアホアホ文。読めるかな? 「オマエハ〜」はホットブラザーズ調で、「涎繰り」は生恵幸子風に。
 右上が橋爪大三郎さん、真上が西加奈子さん、左上が中西進さん、「いしいひさいち」さんの名もすぐ横にある。真下は白髪染め広告。