週刊 奥の院 2.15

今週のもっと奥まで〜
■ 南綾子 『マサヒコを思い出せない』 幻冬舎文庫 648円+税 
 
 つかの間、マサヒコと交わった6人の女性たち。ルックスがよくて自惚れ屋で自分勝手。彼女たちは彼を捨てることで新しい人生の一歩を踏み出す。
 智巳(ともみ)24歳、プライドは高いが仕事が長続きしない夫にAV女優にされそうになって逃げる。故郷に向かう特急列車のなかでマサヒコを見かける。幼い頃に会っている。父親の部下だった。アイドル歌手のように美しかった。隣に座り思い出話。彼を運命の人だと思った。目的の駅に着きホテルに。その夜、彼はできなかった。翌日町を歩く。人気のない細い道ばかり。ある場所で立ち止まる。

……え? ここで? こんな道の真ん中で? と大いに戸惑っていると、雅彦は理容店の横の民家の庭に置かれている、白い物置を無言で指さした。
 そこに入れ、ということらしい。
「も、物置だよね」
「わかってる」
「物置でするの?」
「一度、経験あるけど、結構いいものだよ」
「だけど、もし人が……」
「大丈夫、すぐやれば」
 マサヒコは先に智巳を中に入れた。土のにおいがした。雅彦が戸を閉めると、急に真夜中のように暗くなった。
 すぐに手が腰にまわった。どちらからともなく顔が近づく。二人とも唇が日々割れてかさかさだった。けれど口の中は、軽く火であぶったみたいに温かかった。共食いする動物のように、激しく舌を絡めた。……

(彼は昨日からの話がすべて嘘だったと告白する。智巳の話も嘘だろう、男を逆ナンするための嘘だろうと)
 智巳は返事をせずに、これからのことを考えた(実家に寄って挨拶して夫のところに戻ろう)。きっと一週間か、遅くとも二週間後には、わたしは人妻AV女優になっているのだろう。

◆ うみふみ書店日記 その7
2月7日 木曜
休み。いろいろ雑用。
野暮用で店に。ゴット氏も緊急の用事で来ていた。
(紀)のGFにお礼のハガキ。

2月8日 金曜
荒蝦夷Hさんより、「東日本大震災を被災地から読む――在仙(仙台)編集者による震災関連本50選――」のリストが届く。
仙台の出版編集人が選書し、自社の本も推賞。
それはいいんだけれど、やっぱり男だけでやると……。
地元本屋の女性書店員が強烈なダメ出し!
「あなたたちのセレクトにはコミックや実用書が入っていない!」
助っ人。プラス10冊。
そうだよ〜、女性の視点が大事なんだよ〜。ほんまに男はダメ!
当然、【海】は参加します。

2月9日 土曜
ロードス書房さん、古書追加。
ミシマ社KさんTEL。明日のイベント確認。
南京町春節祭で人出多い。

2月10日 日曜
江弘毅さんトーク。ゲストはフリーライター西岡研介さん。参加者37名(関係者含む)。
かたや岸和田だんじり祭幹部、こなた元「噂の真相」、がっぷり四つの大きな声で「危ない話」。
「悪い奴はうまいモン知ってる」
 神戸の街の特性を実体験から語る。
「港町の開放性、なんでも受け入れる。山から視界が開けて風通しが良い。しかし、これ以上進んだらあかんという闇の世界が口を開けて待っている」


先月みずのわ出版の本をお問い合わせの方、再来店。お目当ての本があって喜んでくださる。しかし、何ゆえ「みずのわ」をお気に召したのだろう? 不可解なり。

2月11日 月曜
休み。
「朝日」記事。蔵書持ち寄り「集合本棚」。4月に神保町で開業。本好きが蔵書を持ち寄り、会員制・低料金で、自由に本を読めるそう。

娘が例によって弾丸帰省。友だちと旅行して家に寄る。帰京前に昼食。

ブログと「海会」の用意。A新聞用原稿、担当Tに送信。

2月12日 火曜
GFよりチョコ。ありがとう。

東日本大震災を被災地から読む」フェア。出版社から出品OKの返事続々。ありがとうございます。

「朝日」夕刊記事。「ひとえきがたり」。東京メトロ根津駅」ホームに「駅文庫」。東京メトロが地域交流を目的に80年代後半から無料貸し出し本。現在5駅で。根津駅、在庫約千冊。利用客や学校からの寄付に支えられている。
お客さん、「来るたびに本が変わっている」「1年で620冊借りた年もある」
清掃員の人、「汚すなんて人、本好きにはいないでしょ。掃除はから拭きだけで十分」

2月13日 水曜
H社営業Nさん来店。「東日本大震災〜」フェアで選書されている新刊を指定配本してくださることに。ありがとう。

私宛のメールは大概「呑み会」なのに、なかよし営業さんから本の注文メール2件。そういう使い方はよくない! おじさんは楽しいメールを待っているから。

GFからまたもチョコ。ありがとう。けっして、自慢じゃないから……、催促でもない。

「海会」原稿締め切り間近。F店長から「東日本大震災〜」フェアも紙面に入れるから用意せよと依頼(命令)。

ブログ、私が独占しているのだけれど、誤字脱字、入力ミスに変換ミス、さらに基礎知識不足で、間違いだらけ。後日訂正が多数あり。本日も文芸担当(休みなのに)よりメールで指摘あり。万城目学さんの本『偉大なるしゅららぽん』が『しゅらんぽん』になっている。彼女の雄叫びが聞こえてくる。
「しゅらんはオノレじゃ〜!」

◆ 先週のベストセラー
1 湊かなえ 望郷  文藝春秋
2 黒田夏子 abさんご 文藝春秋
3 江弘毅 飲み食い世界一の大阪  ミシマ社
4 村井康彦 出雲と大和  岩波新書
5 隅研吾 小さな建築  岩波新書
6 西村京太郎 南紀新宮・徐福伝説の殺人  新潮社
7 ビートたけし 間抜けの構造  新潮新書
8 成毛眞 面白い本  岩波新書
9 杉田敦 政治的思考  岩波新書
10 宮地尚子 トラウマ  岩波新書

 4位以下はすべて新書。寂しい店頭。
(平野)