週刊 奥の院 2.8

今週のもっと奥まで〜
■ 石田衣良 『親指の恋人』 角川文庫 552円+税 
 
 お金持ちの大学生・澄雄(スミオ)と、パン工場契約社員で出会い系サイトのサクラをしている樹里亜(ジュリア)。メール交信から始まった、はかなくて激しい恋。その最後は……、小説冒頭に明らかにされている。
 場面は、澄雄が彼女を自宅(六本木ヒルズのマンション)に連れて来たところ。

「おうちの人、誰もいないんだね」
「うちの親のデートの日なんだ。いい年だけど、二回目の結婚で、年が離れた奥さんをもらうと、そんなものかもしれない」
(両親の帰りは遅いと)
「そう……」
 いきなり自分のTシャツの裾に手をかけた。ジュリアはためらうことなく、身体の線にぴたりと張りつく薄手のTシャツを脱いでしまう。レースの縁がついたブラジャーは鮮やかなターコイズブルーだった。
「……だったら、ここでしようよ。こんなすごい部屋には、わたしは一生住むことはないと思う。わたしとスミオは同じ時代に生まれたけど、別な世界に生きている。それは絶対にクロスすることがない世界だよ」
 ジュリアはデニムのミニスカートのホックをはずした。すとんと足元に落ちたスカートから形のいいつま先を抜く。ショーツも同じレースづかいのブルーだった。
「わたしはスミオとはつきあえないと思う。好きだけど、やっぱり続かないよ。だから、最初で最後の一回を、この部屋でしたいな。スミオが毎日暮してるこの部屋のこともちゃんと覚えておきたいから」
 澄雄ののどはからからだった。下着姿のジュリアが自分の部屋に立っている。それは衝撃的なイメージだ。
「スミオもわたしとしたいでしょう」
 黙ってうなずくのに、これほどの力が必要なのはなぜだろう。ジュリアはあっさりといった。
「じゃあ、シャワーを借りるね。どこにあるの」
 澄雄はジュリアのやわらかな手を引いて、広いマンションの廊下を歩いていった。


◆ うみふみ書店日記 その6
1月31日 木曜
休み。
二日酔いで「奥の院」。それでもいつもより早く終わる。
GFたちから次々メール。ひっさしぶりのこと。
福島の本屋さんのことを知らせてくれた人。ダンナと神戸に行くからとランチ情報を要求する人。呑み会翌日でも快調に仕事をしている人たち。
ブログの用意をしていたら一日が終わる。

2月1日 金曜
フェアの入れ替え作業。「平和の棚の会 総選挙を通して平和を考える」と「NR出版会セット」を合わせて。「2.10 江弘毅トーク」記念「ミシマ社&140B」ジョイントフェア。
M社Mさんが定期的に日記を送ってくださる。どういうわけだか、年末年始がすっぽり、ない!

2月2日 土曜
昨日教科書保管スペース確保のため、男性4人でスチール製机2台を2階に上げた。うち1名がギックリ腰になった。戦力外に。教科書作業はまだ始まっておらんぞ!
NR出版会のKさんから「手作りのPOP」が届く。嬉しい。フェアが終わったら持って帰って家宝にしよう。 

2月3日 日曜
休み。
「朝日」記事、鶴見大学図書館で、川端康成の未発表自筆原稿「勤王の神」(1928年)見つかる。応募原稿のボツ。
妻、同級生とランチ。
終日のんびり。

2月4日 月曜
「ギックリ腰」者、休み。心身共に痛いだろう。
トーハン神戸支店長来店。4月、ハーバーランド(バブルの残骸)に新しくできる「イオン」(旧阪急百貨店)内に400坪で本屋出店情報。
「お好きにどうぞ」
やめたほうがいいと思う。今までどれほど出店閉店を繰り返したことか。

2月5日 火曜
何より嬉しいNRのKさんから電話。どっきどっき、うっきうっき。
そのうえ嬉しい(紀)のTさんからお手紙。栞をいただく。
普通に感謝、K文研・Iさんからフェアのパネル。
続いて感謝、全国書店新聞S編集長から「兵庫組合記事」掲載号。
仙台「荒蝦夷」Hさんから電話。「3・11」フェアについての提案。リストを作ってくださる由。全点でなくてもやらなくては。同社スタッフさんの体験記も今月K社から出版される。
J堂池袋のIさんからおハガキ、1月末社用で京都に来てらしたそう。超多忙。

2月6日 水曜
「ギックリ腰」君、出社。痛さは半端なものではないらしい。本屋の男はみんな腰に爆弾を抱えている。だましだましやっているのよ。
教科書作業日程と人員配置発表。3月中旬から月末までハードスケジュール。脳内音楽は「ヘビーローテーション」。
B社Kさん訪問。大のトラファンで、毎回F店長と盛り上がるが、昨年のことは「なかったこと」になっていて、今シーズンに賭けている。
先週のベストセラー
1 黒田夏子  abさんご 文藝春秋
2 村井康彦  出雲と大和 岩波新書
3 朝井リョウ 何者 新潮社
4 江弘毅   飲み食い世界一の大阪 ミシマ社
5 永田和宏  近代秀歌 岩波新書
6 柴田トヨ  くじけないで 飛鳥新社
7       シルバー川柳 ポプラ社
8 西村京太郎 十津川警部 わが屍に旗を立てよ 実日ノベルス
9 郄田郁   あい 角川春樹事務所
10 ピーター・バラカン ラジオのこちら側 岩波新書
(平野)