週刊 奥の院 2.7

■ 原田敬一 『兵士はどこへ行った――軍用墓地と国民国家』 有志舎 2600円+税 
第1部 軍用墓地とは何か  軍用墓地という「軍事文化」 軍用墓地と日本の近代 帝国の軍事文化 戦争の終わらせ方と軍用墓地問題
第2部 日本の軍用墓地 「万骨枯る」空間の形成 「水漬く屍」のゆくえ 軍人の墓 軍用墓地の戦後史 軍隊と戦争の記憶
第3部 欧米とアジアの軍用墓地  国家的顕彰と国民的和解 軍用墓地の創始 ドイツ圏の軍用墓地 戦後アジアの軍用墓地 国民にとっての軍用墓地・国立墓地

戦死者追悼のあり方は、本当に世界共通なのか?
世界各地の「軍用墓地」調査を通して見えてくる様々な追悼の姿から、戦死者と国家・国民のあるべき関係をあらためて考える。

 著者は1948年生まれ、佛教大学歴史学部教授。著書、『国民軍の神話――兵士になるということ』(吉川弘文館)、『日清・日露戦争』(岩波新書)など。
 プロローグで、ピート・シーガーの「花はどこへ行った」を紹介する。若い男女が幸せな家庭を作りつつあるとき、男たちはどこへ行ったのか。兵士となって戦場に行き、死んで、墓に入った。

 なぜ人は戦場に赴かねばならなかったのか。なぜ名前も顔も知らない人々を傷つけ殺し、自らも命を落とすことになるのか。「国家」を維持するため、故郷と家族を守るため、という常套句では、当事者たちは癒されない。そのために近代国家は、戦死者を追悼する空間を設定し、「愛国者」として記憶するよう国民に求めた。このことは世界共通だ。なぜ悪い、と声高に説明する人々がいる。本当にそうなのか。……

 「公」の名のもとに国家が占有する「軍用墓地」の歴史と実態を調査する。
 日本の「軍用墓地」は全国にあるが、その存在は少数の人――自治体の担当者と遺族会――にしか知られていない。
「大多数の人々は事実を知らされておらず、一部の人は知らないことになっていて、少数の人たちだけが知っている」という存在。1945年に陸軍省海軍省が廃止された時に、「墓地」の使命終わったと考えられたが、実は現存していた。
 その「墓地」はどこにあるのか。
(1) 歩兵聯隊所在地61ヵ所
(2) (1)以外の陸軍部隊9ヵ所
(3) 海軍(鎮守府と要港所在地)5ヵ所
(4) 海軍(鎮守府以外)4ヵ所
 計79ヵ所だが、これは研究者の調査で、あくまでも推定数字。中国や朝鮮半島にもあったはずで、それらは含まれていない。
 県下では、姫路市の霊園内に残っている。共通の大きさの墓標が並んでいるそう。
 追悼、顕彰、慰霊の行事をする一方、南方戦線などでの遺骨収集や「軍用墓地」には関心が少ない。「墓地」を歴史的遺産と考えるかどうかも含め、維持・保存などについて議論が必要。
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 表紙写真・大竹昭子。 http://www.msz.co.jp/book/magazine/

(平野)
「花はどこへ行った」。日本語歌詞は、おおたたかし(安井かずみ補作)。
「野に咲く花はどこへ行く 野に咲く花は清らか〜」。