週刊 奥の院 1.27

新書
■ 大竹聡 『ひとりフラぶら散歩道』 光文社新書 840円+税 


『酒とつまみ』編集長。「フラフラ」と「ぶらぶら」。

「ハードルの低い道楽、散歩酒のススメ」より。
 

 夜毎どこぞの酒場に顔を出してはへらへらと酔っ払い、昼日中ふらふらとで歩いてふと見つけた店で軽く一杯ひっかける。思えば昼夜なしに飲むこともしばしばですが、ことにふらりと入った店で飲む昼酒は楽しいものです。……
(うろ覚えの場所を歩いて知らない店に飛び込む)
 平日の昼日中、あのあたりいいだろうなあと思う場所をそぞろ歩くことは、やれそうでやれない一種の道楽だ。カネにならない上におよそ世の中の役に立たぬという点で道楽なのであるが、女道楽、着道楽をはじめ酒にギャンブルなど数多(あまた)ある伝統的道楽に比較したとき散歩は実に安価だし、蕎麦打ちほど難しくない。かくなる上は、このまことに気楽な散歩という道楽に軽く一杯という要素を加えたなんともハードルの低い楽しみを、つらつらご紹介いたしたく思った次第。……

 峠の茶屋で、ギャンブル場で、遠出の駅のホームで……。神保町で本を探して、

 私なんぞは、一軒の古書店に入るだけで、ひとつの棚の前に立つだけで、腹が痛くなってくる。何を読んだらいいのか軽くパニくる。情けないが昔から続く癖みたいなもんで、新刊書店でも、でっかい書店に行くとときどき同じ症状がでる。私は本屋が恐いのである。
(入店の目的を一点に絞ることで、それだけを探す、見あたらなければないでよい。このときは「神吉拓郎」を探す。『洋食セーヌ軒』を入手した)
 食べ物を題材にした短編集で、この作家の短篇はどれもそうなんだけれど、少ない言葉で実にどうもたくさんのことを言うという、そう、その通り、私と真逆な文章で構成されておりまして、それが気持ちいい。

 
本を買って、後楽園の場外馬券場に向かい、そして一杯。 
 
■ 今柊二 『ファミリーレストラン 「外食」の近代史』 光文社新書 820円+税  定食評論家、畸人研究会主幹。
「家族での利用」を軸に、外食の歴史変遷をまとめる。デパートの食堂、自家用車の普及、外食産業成長、低価格化、専門食化……。

……「家族の外食」を追うことで、家族の行動形態や日本人の食文化の変化もくっきりと見えてくる。それ以上に、ふだん何気なく入っているチェーン店の背景には興味深い歴史があり、日本全体の経済の動きやさまざまなことち「つながっている」のがわかる楽しさも……

 あくまで、外食産業変遷史、ビジネス書ではない、とお断り。

雑誌 

■ 『芸術新潮』2月号 新潮社 1429円+税 
特集は「小林秀雄 美を見つめ続けた巨人」。生誕111年、没後30年記念。
グラフ 小林秀雄がいた場所
第1章 美の原点、骨董  第2章 美を求める心  第3章 巨人の素顔


■ 『中原淳一と「少女の友」』 実業之日本社 1200円+税 
 中原淳一生誕100年記念。特製クリアファイル3枚付録(A5判)。
 中原のデビューは、1932(昭和7)年19歳、『少女の友』の挿絵。主筆が誌面刷新のため大抜擢。挿絵だけではなく付録でもアイデアを出し、有力ブレーンになる。35年から表紙も担当し、37年にはエッセイ「女学生服装帖」執筆。
(平野)