週刊 奥の院 1.21

■ 『大森実ものがたり』 「同」編纂委員会 街から舎 1800円+税
(帯)

 伝説的国際ジャーナリスト大森実の熱い仕事ぶりと生き
ジャーナリスト仲間、取材を受けた著名人、知人、友人、親戚、妻ら73人がつづったヒューマンドキュメント

 大森実(1922〜2010)、神戸市生まれ、神戸高商(現・兵庫県立大学、元・神戸商大)卒業。1945年会社員から敗戦の日を期して毎日新聞大阪本社入社。英語を武器に進駐軍取材を担当。敗戦処理の第一線に立ち、特ダネを連発。「現場に行く、自分で見る」を実践。ベトナムなど紛争地や沖縄報道、各国要人とのインタビューも。ニューヨーク、ワシントン支局長、外信部長。66年退社、大森実国際問題研究所設立。75年からアメリカを拠点にした。ボーン・上田記念国際記者賞日本新聞協会賞などジャーナリスト賞多数。著書も多数。
まえがき  大森恢子(ひろこ) 
第一章 毎日新聞時代 
第二章 東京オブザーバーと太平町戦争
第三章 フリー・ジャーナリストから歴史家へ
第四章 舞台はアメリカへ
第五章 ライフワークを終えて
第六章 闘病
 夫人の「まえがき」より。
 2011年の東日本大震災原発事故後、大森とともに活動したジャーナリストから、「日本のエネルギー政策について大森ならどんな意見を発信するか」というファックスが届く。4月アメリカ自宅での大森一周忌に、科学者、ジャーナリスト、ビジネスマンたち24名が集まり、この問題を討論した。 
http://www.rafu.com/2011/04/%E5%A4%A7%E6%A3%AE%E5%AE%9F%E3%81%95%E3%82%93%E4%B8%80%E5%91%A8%E5%BF%8C%E3%81%AE%E9%9B%86%E3%81%84%EF%BC%9A%E6%81%A2%E5%AD%90%E5%A4%AB%E4%BA%BA%E5%9B%B2%E3%81%BF%E3%80%81%E5%8F%8B%E4%BA%BA%E3%82%89/
 原発について正否を問う。YES−4、NO−10、UNDECIDED−10。科学者は全員NO。YESの人に「家の裏に原発を造っていいか」と問うと、悲鳴に近い反応。
 大森は最初の本『広島の緑の芽』(共著、世界文学社、1949年)にこう書いている。
原子爆弾を体験した地上唯一の人類、広島と長崎の人々に捧ぐ。広島の人々を描くこのささやかな一篇の著が、何らかのかたちで世界平和への貢献となるならば、謙虚なる著者の唯一の祈りである」
 また、大森はアメリカの原子炉を世界で初めて取材して、原子力平和利用を紹介した。

 ジャーナリストとして原子力の恐ろしさと平和利用の両側面からカバーした大森がいま、健在であったとして、どんな答えを出すか断定はできません。ただ明言できることは、徹底的な調査を基に真実を報道し、国民に正しい判断、選択ができる基盤を提示しただろうということです。
 どうして、ジャーナリズムによる「全調査・日本の原発」のようなキャンペーンがないのですか? どうして、東電の経営者は誰一人責任を取らず、会社の財産処分もろくにせず、事実上の反省はゼロで、消費者に値上げを押し付ける権利があるのですか? 眠っているのは政治家だけでしょうか? ……

 政治家、企業家、ジャーナリズムの対応に、不信感とともに声を出さねばと、意見を同じくした人たちと本書を編纂した。
(平野)
 迫力のあるダミ声とブルドック顔。