週刊 奥の院 1.18

今週のもっと奥まで〜
■ シルヴィア・ディ 『ベアード・トゥ・ユー』(上・下) 集英社クリエイティブ 各1200円+税  
 著者はロサンゼルス生まれの日系人、30歳代。元・軍諜報機関勤務、ロシア語の専門家という経歴。
多数の名義で作品発表、受賞歴多数。
本書は電子書籍でスタート後、ペリカンより刊行。アメリカで100万部突破、34カ国で翻訳。

(帯)

 NY、マンハッタン――人を魅了してやまないその町で、エヴァは新しい職場に足を踏み入れた日、運命の男に出会う。誰もが心を奪われる完璧な容姿の大富豪、“謎と危険の塊”の男、ギデオン・クロスに。
 つのる欲望と、たがいに抱える過去の秘密。身も心もむき出しの愛は、ふたりを未知の官能世界へと導いてゆく――。

 ベアードとは、「むき出し」「ありのまま」「丸出し」だそう。
 エヴァ24歳、広告会社に就職。ギデオンは20代後半ながら大企業CEO。美男美女の恋愛話だが、互いに悲しい過去、心の傷が……。
 ロビーで別の女性が落とした小銭を拾ってあげているところ、彼にぶつかってしまう。

「だいじょうぶかな?」
 その声は上品で洗練されていて、ちょっとかすれ気味なところがまたセクシーで、みぞおちがドキドキした。ついセックスのことを考えてしまった。とてつもないセックスのことを。あの声で話しかけられつづけるだけでいってしまうかもしれない、と一瞬思う。
 乾いた唇を舌で湿らせてから、返事をした。「だいじょうぶです」
(上司マークと同じビルにあるクライアントの事務所に)
 扉が開き、わたしが最初に入るようにと身ぶりで示された。意識して明るくほほえんで、一歩足を踏み出して部屋に入ったとたん、立ち上がった男性の姿を見て……笑顔が凍りついた。
 入り口でいきなり立ち止まったわたしの背中にマークがぶつかってきて、そのはずみでわたしは前のめりになってよろけた。“謎と危険の塊”がわたしの腰を両側から支えて持ち上げ、胸に抱き寄せる。肺から空気が一気に抜ける。あっというまに、わたしが持ち合わせて常識という常識が飛び去っていった。何枚もの生地で隔てられていても、両方の手のひらで触れた彼の上腕二頭筋は石のようだし、お腹で触れた腹筋は硬くて、まるで筋肉の厚板だ。彼が鋭く息を吸いこみ、ふくらんだ胸に触れて、わたしの乳首が硬くなった。
「また、会ったね。きみに衝突されるのは、いつだってうれしいよ」
(仕事の話が終わり、エヴァだけエレベーター前で引き留められる)
「きみはだれかと寝ているのかな?」
「あなたに関係あることでしょうか?」
「きみとファックしたいからだ、エヴァ。もしいるなら、その邪魔者を知る必要がある」
……
(エレベーターで偶然一緒になる。オフィスに連れていかれる。早く解決しようと)
「何を解決しようと思っているんですか?」
 クロスはため息をつき、わたしを花嫁のように抱き上げてソファまで運んだ。ソファにお尻から下ろして坐らせ、わたしの隣に坐る。「きみの不満を。僕がきみと寝るにはなにが必要なのか、話し合おうじゃないか」
(彼の直接的な物言いに拒否の態度)
 背中を向けていても、彼が近づいてくるのがわかった。わたしの肩の両側のガラスに彼の手のひらがぴたりと押しつけられた。逃げられない。
「こっちを向きなさい、エヴァ
 押さえつけられるような口調で言われてぞくぞくするものがこみ上げ、思わず目を閉じる。……

(平野)
小説とわかっているんですが、アメリカのCEOさんは勤務中でもナニに忙しい。