週刊 奥の院 1.11

今週のもっと奥まで〜
■ マリオ・バルガス=リョサ 西村英一郎訳 
『ドン・リゴベルトの手帖』 中公文庫 933円+税
『継母礼讃』の続編。
 保険会社重役で資産家ドン・リゴベルトは美しい後妻ルクレシアを娶ったが、子のアルフォンソが彼女を誘惑し、夫妻は別居。ルクレシアがメイドのフスチアーナと屋敷を出て、新しい住居に。
 一年後、アルフォンソが現われて許しを請うところから始まる。
 初めは二人とも怒りを隠さないが、徐々にアルフォンソのペースになる。学校帰りに立ち寄り、心酔している画家・エゴン・シーレの画集を見せて、二人にエロティックなポーズまでさせてしまう。彼が天性の女たらしなのか、二人の女性が無邪気なのか?
 一方、リゴベルトは愛する妻を失った悲しみから脱け出せない。会社から戻ると部屋に閉じこもり、ルクレシアを思いながら妄想に耽る。ほとんど変態プレイ。
 アルフォンソはリゴベルトとルクレシアを再び結びつけようと画策。休日にピクニック。夕方家に。カゼ気味のリゴベルトは早めに休む。ルクレシアも寝室に。

「怪物だろうか?」ドン・リゴベルトは心配そうに言った。「アルフォンソのしていること、言うことがわかるかね? 自分のしていることを知っているだけでなく、結果も計算しているのだろうか? そういうことはないといえるだろうか? それとも、たんに悪戯好きで、悪ふざけが思ってもいないとんでもないほうへいってしまうのだろうか?」
 妻はベッドの脚のところに崩れた。
「私もそのことを毎日、一日に何度も考えたわ」彼女はうなだれて、ため息まじりに言った。「あの子をわかっていないわ。あなた、具合はいかが? ……」
(アルフォンソが家に来ていたことを明かす。リゴベルトは話をさえぎり、洗面所に。習慣の就寝前身体中の手入れ――しつこいくらい丁寧)
 ドニャ・ルクレシアはすでにベッドにいた。ナイトテーブルの灯りを残し、部屋の灯は消えていた。シーツの下で身体を妻のほうへすべらせるとき、激しい動悸がした。さわやかな草、露に濡れた花、春のやわらかい香りが彼の鼻孔をとおり、大脳に到達した。張りつめた空気のうちに、今、彼は自分の左脚に触れんばかりの妻の太腿を認めた。とぼしい、間接的な光で、妻が細い肩紐でつりさげ、乳房を覗かせるレースの縁取りのあるピンク色の絹のネグリジェを着ているのを見た。彼は蘇生したように息をついた。性急で奔放な欲望がみるみる身体にみなぎり、器からあふれだした。妻の匂いに眩暈がし、酔った。……

 抱き合いながら、二人は話す。ルクレシアはアルフォンソへの不安な気持ち、リゴベルトは妄想愛を。そして、アルフォンソが二人を和解させようとしていること、家族の将来を。
(平野)