週刊 奥の院 1.10

■ ベアント・ブルンナー  山川純子(すみこ)訳   
『月  人との豊かなかかわりの歴史』 白水社 2500円+税 
 著者はドイツのフリー文筆家・編集者。文化史、人類学の分野で活動。英語で執筆。著書に『熊』(白水社)。
目次
1.月を眺める  2.心に浮かぶ月  3.月面図への情熱  4.夜の青白い太陽  5.月に住む者との出会い  6.パリより愛をこめて  7.月の起源について  8.あばた顔にはわけがある  9.月による振付  10.月と神秘の儀式  11.月と私たちのあやふやな関係  12.月と未来を描く  13.アポロ以前・以後  エピローグ 月の憂鬱

(太陽なしでは地球は成りたたない)……では、月がなくなったら、地球はどんなふうになるだろうか。……地球上の生命がいかに月と密接につながっているかを知れば知るほど、月のない生活は不安に思えてくる。地球の傾きを固定することによって、月は地軸が季節ごとに不安定になるのを防いでいる。もし地軸が大きくずれていたら、地上の生命の進化はまったくちがうものになっていたかもしれないのだ。……

 潮の干満がなかったら複雑な生態系は誕生しなかった。現在の定説では、地球に大きな天体が衝突して地球の一部から月が発生し、地球が傾いた。潮の干満は月と地球の自転スピードを制御する役目もある。
 物理的な問題だけではなく、月は人間にとって大きな想像力を駆り立てられる存在。
 私たちは太陽暦で暮していているが、新聞に毎日「月齢」が載り、陰暦に基づいた自然観も持ち続けている。ものの本を見れば、月の満ち欠けにさまざまな名称があり、それぞれの月を愛で、楽しんできた歴史がある。
 世界規模ではどうか? やはり満ち欠けに関心を持った。

 太陽は直接見るのにまぶしすぎるが、月はゆっくり眺め、それについて思いをめぐらすのに向いている。およそひと月かけて、月は空をめぐる軌道を描く。この動きよりさらにわかりやすいのは、月の満ち欠けである。……

 満ち欠けの明るい部分と暗い部分がつくる模様をみて、女性の顔、ウサギ、カニ、犬をつれて歩く人などを見つけた。神話では満月は神々の聖なる結婚の舞台になった。ブッダが悟りをひらいたのは満月の夜。シベリアのシャーマンは呪力を授かるために満月の光を浴びた。メキシコのアステカ族は月の暗い部分に死を見出した。ニュージーランド先住民族は月が水に影響を与えると考えた。牛と妊娠と月を結びつける神話も各地にある。月を男性とみなす民族もあれば、女性とする民族もある。

 人類が生まれてこのかた、月は夜空に浮かぶ神秘のあかりであり、さまざまな魔力がそなわっていると考えられたり、時間を区切るのに使われたりしてきた。望遠鏡は、文字どおりの意味でも、また象徴的にも、まさに私たちのものの見かたを一変させた。科学は、月を地球の衛星だと断定し、人間の想像力は、月にヒトや何らかの生き物がいるかどうか、思いをめぐらすのに忙しかった。……
 近代以前に人類が月について抱いた夢想は、本質的に、地球の外を探検したいという切なる欲求の一環であり、宇宙開発競争へ向かう一歩だった。……
コペルニクスによって、月は惑星と見なされなくなり、崇められなくなった)
 ……それでも月は、人間の想像力のシンボルとして不動の地位を誇り続けるだろう。……月の重要性や役割は、つねに文化によって、時代によって異なっていた――天の神、象徴的な守護神、裁く者、あるいは壮大な幻視や訪れと崇められたり、「単なる」科学的研究対象になったりもした。  
人類にとって、月を「発見」したり、その魅力を賞讃したりするために月まで行く必要はなかった。地球から見られるのに、なぜこんなに行きたがるのだろうか? 月面を歩くことで、月の秘密に到達できると保証されるのだろうか? そうやって物理的に親しくなると、かえって月の秘密が理解しづらくなり可能性はないのだろうか? ……
 未来の世代が月を解釈する枠組みは、宗教的なものかもしれないし、そうでないかもしれない。でも、月と私たちの関係は、私たちが地球をどう理解し、私たちの宇宙での位置をどう考えるかを反映し続けるだろう。今や月は謎ではない。だが、もっとも驚くべきは、どれだけ知識を貯えようと、月は今なお私たちの目をみはらせ、ほかの何ものにも負けない魅力を放っていることかもしれない。……

(平野)
 子どもの頃のヒーローは「月光仮面」。
♪月の光を背に受けて〜♪ (川内康範作詞)
 セーラームーンだって、月。
うみふみ書店日記(2) いつの間にか始めてます。なるべく毎週水曜日に。
1.7 月曜
社長談。週末東京に。神保町の大書店では北海道物産販売。
長男の野球部仲間のお母さんお二人来店。地域の市民図書室のお世話をしていらっしゃる。
「お子たち帰ってきはりましたか」と訊ねる。
「上の子だけ。友だち連れて」
「もう、飯炊きマシーンでした」
「朝日」朝刊にあった「漱石全集未収録文章」、本日発売の「新潮」2月号掲載の黒川創「暗殺者たち」作中で公開。
芥川賞直木賞候補作発表。

1.8 火曜
営業さんの来店多し。
拙著『本屋の眼』をお買い上げくださった美女、サインせいと。喜んでころこんでさせていただきました。ありがとうございます。そやけど、エエ本がいっぱいあるのに、なんでワテのん?
夕方、『評伝・湯川れい子』(朝日新聞)お求めの男性が、「音楽書、たくさんあるね」と。
「ヤ○ハさんが近くですので、あちらとは違うものを置くようにしています」
担当でもないのに、勝手に代弁いたしました。それでいいね、アカヘル?

1.9 水曜
新島八重」フェア、古書「つのぶえ」さん納品。こちらはキリスト教関連書が自慢。「新島襄」を。
J堂のYさん、広島から帰ってきてはるのは知っていた。MJのHさんと来店。月末に呑み会という名の勉強会しまっせ。Jさんが去って寂しくなった神戸が明るくなった。
そんな歌ありました。Yさん、あんたはバラか?
先週のベストセラー
1. あい  郄田郁 角川春樹事務所
2. 朗読ダイエット  ドリアン助川 左右社
3. 聞く力  阿川佐和子 文春新書
4. はだしのゲン わたしの遺書  中沢啓治 朝日学生新聞社
5. 狛犬ジョンの軌跡  垣根涼介 光文社
以下 『海賊と呼ばれた男(上)』 『噂の女』(奥田英朗・新潮社) 『55歳からのハローライフ』 『神去なあなあ夜話』(三浦しをん・徳間) 『人生がときめく片づけの魔法 2』(近藤麻里恵・サンマーク)
 『あい』は事前予約のお買い上げ分、どこまで伸ばせるか。『朗読〜』は神戸出身の詩人で、ファンの方がまとめ買い。文芸書が着実に出て、【海】らしい売れ方かな、と。