週刊 奥の院 1.2
■ 長谷川櫂 『四季のうた――詩歌のくに』 中公新書 740円+税
「読売新聞」連載「四季のうた」の第6集、2010年4月から12年3月分。
長谷川は震災直後に『震災歌集』、続いて一年目に『震災句集』(共に中央公論新社)上梓。
……ちょうど真中にあたる二〇一一年三月十一日、東日本大震災が起こった。大地震のあと大津波、原発事故が発生し、この国はいまだその痛手から立ち直っていない。
震災後、長谷川の連載は1ヵ月休載した。4月12日再開した時に紹介したのは、2004年の第1回と同じ芭蕉の句だった。
さまざまの事おもひ出す桜かな
日本という国をふたたび造りなおさなければならない大災害に直面して、それと同じように日本という「詩歌のくに」を建て直さなければならないと思ったからである。その願いを芭蕉の一句に託した。
あれからさらに時が流れて、思えば唐の詩人、劉廷芝(りゅうていし)の詩の一節が去来する。
年年歳歳 花相似たり
歳歳年年 人同じからず
……過ぎ去ってしまった自分の青春の日々を惜しむ、いわばセンチメンタルな内容なのだが、この一節ばかりはこの世の実相をみごとにとらえていて、そのゆえに千年以上の歳月を越え、国境を越えて生きてきた。
大震災の前後の様相もまさしくこの詩のとおりである。そのときまでいた人は今はなく、人間界は様変わりしてしまったが、四季のめぐりだけは昔と変わらない。春になれば桜が咲き、秋になれば円(まどか)な月がのぼる。
これを自然の非情とみるか、逆に大いなる慰めと受けとめるか、人によってそれぞれだろう……
2012年1月紹介の詩歌から正月らしいのをひとつ。
枕もとに本積めばこれ宝船 丸谷才一
読書家・愛書家にぴったりでしょう。もう一句、
もの言はず一日(ひとひ)書の中雪の中 佐々木国広(1938−)
冬は寂しい季節と思われているが、そんなことはない。冬ごもりの喜びというものがある。この句のように雪の降るなか一日中、家にこもって本の世界に遊ぶのは、はたからみればつまらなそうだが、ご本人は楽しいのだ。琵琶湖東岸の人。
(平野)
呑んでばかりいないで、読書もね。
誰に言うとんねん!