週刊 奥の院 12.22

■ 江弘毅 『飲み食い世界一の大阪  そして神戸。なのにあなたは京都へゆくの』 ミシマ社 1600円+税
 街と、暮らす人、働く人、営む人、訪れる人のコミュニケーションを大事にする。
(帯)

ミーツ・リージョナル』(元)名物編集長、 
大阪・京都・神戸の「食と街」を
食べ語り尽くす!
身体でつかんだ


「いい店・うまいもん」話。


 京都の「一見(いちげん)さんお断り」というのは実はよくできたシステム、だと。

……それは客が店側と「知り合い」だからこそ「いい店だ」という前提に軸足を置いているところで、だからこそ「一見では行けない」ではなくて「一見では行かない」。「紹介」などというと大層だが、「つて」すなわち今流で言う「ネットワーク」に頼れば、実際には「一見なのに一見でない」関係になる。だからこそ初めて店に入って「料理がよくない」とか「代金が高い」とかで店に腹を立てることはない。……(だから)「京都のイケズ」はありで、店を訪ねて無理やり扉をこじ開けるのは一番下手なやり方である、という古い都市から新しい客へのメッセージと思っておこう。そういう京都の店では、一般消費者、観光客ではなくて「いい客」になれるから、「付き合い甲斐」がある。

 神戸は?

 六甲から大阪湾まで一気に開ける南斜面の日当たりの良い坂道の街は、歩く人やカフェまで洒落て見える。なによりもいち早く外国に開かれた港が神戸の性格を決定づけている。街はコンパクトで商業・住宅地が隣接している、というより混じっている。そこにミナト神戸の街人のハイカラな生活感があり、新参者や外国人にフレンドリーな気質も心地よい。
 在神の外国人居住者が普段遣いしている、広東・台湾・北京・上海……の中国料理、インドやロシア料理。パン屋、デリカテッセン明治維新まで同じ摂津国の大阪人にとっては、意外やお好み焼き屋、焼肉屋、屋台、餃子専門店などに隣街の神戸らしさが感じられる。

 大阪。
ひとことで表現するのが一番難しいそう。

……大阪環状線の駅は、ひと駅違うだけで全然違う手触りがするし、ミナミのなかでもアメリカ村南船場、難波千日前、道頓堀……と、通りや川を渡るだけで「全然違う街」だということを実感する。ひとつ共通することは、とにかくコミュニケーションが旺盛な大都市であることだ。……

「世界一うまいものがうまいように食える街」大阪と、隣接しながらちょっと違う京都と神戸を案内。
 街を歩き、人と触れ合い、通っているうまい店・うまいもん、おもろい人を紹介する。その店はその街にあるからこその店であり、その人たちがやっているからこその店。
 高級志向とかグルメではない。ファミレスにも行く。安いから行く。しかし、

……このような食事の「価格計量化」みたいなものはあんまり楽しくない。うまいもんを食うときの基本である、「食いたいものは、食えばええやんけ」はそこにはないからだ。

 江が通う鮨屋うどん屋のメニューには値段が書いていない。何を食べても飲んでも払う金額は毎回同じ。通っているうちにそういうふうになっている。

……「何を食べても飲んでも」とは、「食べ放題、飲み放題」のことでは絶対ない。そして「食べ放題、飲み放題」は「食いたいものは、食えばええやんけ」とも全然違う。「食いたいものは、食えばええやんけ」の根底には、「うまいものを食べること」と損得勘定はまったく別の位相にあることおよび、「食べたくないのに食べてしまう」人のさもしさに関しての諦観と、そのだらしない欲望への足枷のような言及が含まれている。

 うまいものは「おいしいと思うからおいしい」のであって、うまいものが「いくらで食べられる」というのとは違う、と。
 こう締めくくる。
たとえハンサムであろうと、稼ぎが良かろうと、いい大学を出ていようと、いい店を知らない男には娘を嫁に出してはいけない。 
 というようなエッセイがいっぱい。

 本書刊行記念のトークショーが決まっています。
2013年2月10日(日)午後2時より。2Fギャラリースペース。
著者・江弘毅さんとジャーナリスト・西岡研介さんによるトーク

有料のイベントになります。金額など詳細未定です。決まり次第お知らせします。
(平野)