週刊 奥の院 12.12

■ 『kotoba 第10号(2012年冬号)』 集英社 1333円+税
特集 昭和ですよ! 日本のエンターテインメントは昭和30年代に始まった。 
半藤一利 戦後史のなかのわたくし
Part1 映画とテレビの黄金時代
山田洋次 あの黄金時代にあって今ないもの、形にならないもの
小林信彦 テレビ黄金期の仕掛け人たち
鴨下信一 向田邦子を生み出した時代
Part2 謡曲こそ日本人の心
なかにし礼 歌とは「訴ふ」ものである
川崎浩 由紀さおりの『1969』はなぜブレークしたのか
中川右介 『スター誕生!』――テレビがスターを作った時代
Part3 昭和のエロス
松沢呉一 エロから見た昭和史
小沼勝 昭和のあだ花、わが日活ロマンポルノ
Part4 マンガが文化になった日
藤子不二雄 漫画が本物になった時代
永井豪 僕がタブーに挑戦したわけ
中野晴行 マンガ産業の原点、熱かった六〇年代
Part5 日本の分岐点
孫崎享 アメリカの「虎の尾」を踏んだ男たち
原武史×山本理顕 団地がつくった新しい日本人の生活
今尾恵介 地図に描かれた昭和の原風景
池内紀 花も実もある昭和の居酒屋
泉麻人 デラックスな昭和家電生活

なかにし礼

……昭和歌謡というものを振り返るには、まず「昭和」という時代そのものがどんな時代だったかを振り返らなければならないでしょう。僕たちの世代が言う昭和とは、昭和三年の張作霖爆殺事件から始まる、軍国主義の昭和なんですよ。軍国主義の昭和というものが昭和を作り上げ、そして戦争に負けたけど、結局、その余韻が、完璧に終わっていなかった。戦争という第三楽章に続き、その余韻を残した戦後はエレジーめいた第四楽章のようなもので、その第四楽章の中に、東京五輪があり、経済復興があった。そのようなことを味わって、昭和に対する反省もないまま昭和が終わった。
 だから、「昭和」というのは、大きな、戦後だけの昭和ではなくて、戦前からの昭和なんです。
(昭和と平成では日本人の意識はガラッと変わっている。たとえば、音楽はヘッドフォンステレオとデジタル化で持ち運び可能になった。芸能とは祝祭であり、ハレの行為。レコードを聴くのも同様で、人が集まって聴くという共有体験。ヘッドフォンによってセレモニーのような味わい方を失う。つまり芸能の基本が消えた)
「歌う」という言葉の語源は、「うったふ」つまり「訴える」という意味での、「うったふ」なんだと思うんです。迫害された者、不幸な者、惨めな人間が、「これじゃ、どうしてもやっていけない」という、その「ノン」という否定、拒否の言葉を含んだ訴え。だから、常に悲しいし、悲惨だ。その気持ちが別な流れを生んで、演歌という世界へ辿りついたりしている。(なかにしの仮説)
……歴史的な背景から言うと、日本は戦後、一生懸命復興しました。しかしその陰には朝鮮戦争があったし、ベトナム戦争があった。この軍需景気で日本という国は、どんどんどんどん成長した部分が確実にあった。それに対して、「そんなことでいいのか」という思いが歌謡曲を生み出していた側にあったんです。表面的には日本は栄えていく。だけど、それに対する「ダウト!」という疑問を我々は言い続けていたことが、少なくとも、我々が歌を書くという、「訴ふ」の基本精神だったということになるわけです。 

(平野)
 12月11日、兵庫県書店商業組合理事会。「全国書店新聞」連載終了につきまして、感謝状を頂戴いたしました。
 読者がいてくださったからこそ、続けることができました。ありがとうございます。