月曜朝礼 新刊紹介

【文芸】 クマキ
■ 村上龍 『55歳からのハローライフ』 幻冬舎 1500円+税 
ハローワーク」ではなく「ハローライフ」。50代後半からの〔さまざまな彩りに充ちた「再出発」の物語〕5篇。
 婚活、再就職、家族関係、友情、ペット、老いらくの恋……。
「結婚相談所」より。
 専業主婦だった志津子は定年退職した夫の愚痴に耐えられず、パートに出る。夫は一日中テレビから離れない。54歳のとき離婚した。
 

 離婚のあとの一人暮らしには、寂しさと解放感があった。だが、しだいに解放感のほうが大きくなって、自分でも驚くほど早く、寂しさは薄れていった。
(派遣会社に登録して、スーパーなどで食品の試食販売。仕事は順調。派遣元の担当者に「天職かも」、「あんた美人だから」と)
 美人? 自分でもそんなこと思ったことはないし、これまで誰かに言われたこともない。
 夫は、知り合ってから離婚するまで、容姿をほめたことなどなかった。その他の、性格や料理なども評価されたことはない。……

 再婚を考えて、結婚相談所に登録した。第一に経済的な理由。第二に性的なことも含めて、男性と付き合ってみたい。
 相談員と綿密な面談。見合い相手、ひとり目はセックス重視、即、断る。ふたり目は資産家らしいがカネに汚い。……5人目とは2度デートしてプロポーズされた。……1年で14回お見合いした。クリスマスパーティーがあったが、会場には行かず、バーでひとり。泣いている男がいた。紅茶をプレゼントした。息子くらいの年齢、その人と一晩過ごした。
 相談員は最初からズケズケ言う人だった。写真撮影ではブラウスのボタンをふたつ外せとか、条件のいい人は大勢いてもそういう人は安定していて離婚しても楽にに再婚できるとか、ひどい男と見合いした時は「熱湯でもかけてやればよかったんだよ」とか。 
 元の夫がよく連絡してくる。1度会った。仕事を始めたらしい。
「もう一度一緒に暮せば、どんなことが起こるのだろうか」とも考える。
 

 一人で生きていこう。中米志津子はそう決めた。結婚相談所にはもう少し通ってみる。出会いの可能性は低いが、救いは相談員さんだ。あの人と知り合っただけでも、入会した価値はあった。
 お金や健康など、不安はある。不安だらけと言ってもいい。だが、人生でもっとも恐ろしいのは、後悔とともに生きることだ。孤独ではない。……

■ アーヴィン・ウェルシュジョアン・ハリス他  角田光代 訳 
『Because I am a Girl  わたしは女の子だから』 英治出版
 1600円+税
 イギリスに本部を置くNGO「プラン」は「途上国の子どもたちとともに地域開発を進める」活動。角田は、2009年「プラン」から招かれ、開発途上国の女性たちに会い、話し、それを書くよう依頼される。
 本書は、参加した作家たちによる、小説、ルポルタージュ

「女の子だから」という理由だけで差別を受けることが当然とされる国は、世界にたくさんある。
 日本も、ほんの少し前までは、女性は女性だからという理由で、軽んじられてきた。ほんの何十年か前は、女性にとって教育は重要ではないと見なされていた。……

 角田はアフリカ・マリに。女性性器切除の習慣が残る。命を落とす子もいる。いろいろな村を回る。やめた村、やめない村がある。死者が続出して宗教リーダーが禁止した村もある。

……習慣を変えるのはぜったいに無理だと思っていた私には、これらの変化は驚きだった。話を聞けばそれはひとえに地元のプランと地域スタッフの活動によるものだった。

 女性職員が、2,3ヵ月に1度8時間かけて地域を訪れ、村人たちと対話を続けている。衛生プロジェクトのスタッフ頻繁に訪れている。
 2年後、角田はインドに。カースト、人身売買、売春……、女性が受ける理不尽な扱い、差別。
 

 同性だから、たぶん拒絶していたことを、同性だからこそ、なんとかしたいと思うようになった。私は非力だ。けれどなんとかしたいと思うところからしか、ものごとは動かない。

 翻訳を引き受けた。 


【芸能】 アカヘル
■ 渡辺保 『明治演劇史』 講談社 2800円+税
(帯)
歌舞伎、能、浄瑠璃の展開から、新派の擡頭、女優の誕生まで、近代かという時代精神と日本の演劇の変転を鮮やかに描ききる入魂の大作! 
 カバー写真は「松井須磨子」。装幀、南伸坊
■ 渡辺保 高泉淳子 『昭和演劇大全集』 平凡社 2800円+税 
 NHK−BS2「昭和演劇大全集」(07.4〜09.3)放送から、32作品。
桜の園」(チェーホフ なぜ日本人はチェーホフが好きなのか
瞼の母」(長谷川伸 アウトローの肖像
「夕鶴」(木下順二 日本語の魅力を引き出した民話劇
「近代能楽集」(三島由紀夫 近代劇として描かれた「能」
「マッチうりの少女」(別役実 体の中からゆさぶられる気持ちの悪さ
船場の子守唄」(松竹新喜劇 上方ならではの笑いと涙の人生劇
ベルサイユのばらアンドレとオスカル」(宝塚歌劇団 長谷川一夫の見せる演出
熱海殺人事件」(つかこうへい) 肉体と言葉を鮮烈に描く時代の肖像
「頭痛肩こり樋口一葉」(井上ひさし あの世から一様の生涯を見たら
……
装幀、菊地信義
(平野)