週刊 奥の院 11.26

■ 金益見(きむいっきょん) 『贈りもの  安野モヨコ永井豪井上雄彦王欣太 〜漫画家4人からぼくらへ〜』 講談社 1500円+税 
 
 著者は独自の分野でフィールドワーク。今回は愛読する人気漫画家4人に直撃インタビューして、同世代の若者たちに言葉を贈ってもらう。
インタビューにいたる過程もぜひ読んでいただきたい。
 
 安野モヨコへの手紙。

……この度、『贈りもの』という本を作るにあたり、安野モヨコ先生にどうしてもお会いしたいと思い、今お手紙を書いています。『贈り物』は、現実と常に向き合って走り続ける人間の美しい力強さを、誰もが感じられるようなわかりやすいギフトにして、届けよう! と考えた本です。……

 読者にメッセージ。
(安野)
……昔のわたしに比べたら、(漫画家志望の子たちは)みんな全く問題ない。だから足りないとしたら、ほんとうに「自分はできないんじゃないかな」と思いこんじゃってるような、そういうことだけの気がするんです。
(永井)
……魂は何度でも転生するなら、その人生その人生で、繰り返し自分を鍛えることに意味があるんじゃないかって。何か大きな高みに行こうとする修行の一端なんだって、今の人生を考えることができたら、生きている時間に求めるものって、変わってくると思うんです。そう信じる人が増えたら、世の中もう少しよくなるんじゃないかなって。
(井上)
 自分を変えてまでやる意味がわからないんです。そもそもそれを変えちゃうと「俺じゃなくていいじゃん」と思うから。自分っていう人間が描く意味がなくなるでしょ。

(王)
 若い人見てると、「とりあえず流れてみろ」って思うんですね。なんでもいいから、10年辛抱して打ち込むとか。「全部、面白いことに結びついているはずやから」って。
 著者は4人の共通点を発見する。
 

 彼らは、ずっとずっと苦しんできて、まだ苦しんでいるということ。
 楽に生まれたものなんてひとつもないということ。
 私達は、苦しみのなかから生まれた「線と線の交わりで表現された生命」のようなものを漫画として読んでいる。
 漫画は短時間で楽に読めるけれども、決して楽なところから生まれたものではない。……

 愛読しているからこそ、著者自身も苦しんでいるからこそ、わかることなのでしょう。ただ会って話しただけではない、漫画評論集でもあります。

■ 『女神 石井一男画集』 ギャラリー島田 3000円+税 

 「命の水、女神」(島田誠) 
石井一男さんからかかってきた一本の電話。
一九九二年六月二十四日。石井さん四十九歳の時。
それまでの鬱々たる二十年の日々から縋りつくように描きはじめた小さな絵。
その日を分水嶺のように二十年。画家、石井一男が誕生した。
……

 こちらで、作品の一部をご覧いただけます。http://www.gallery-shimada.com/schedule/index.html
 石井一男展 12.1〜12.12 ギャラリー島田
東京では、ギャラリー枝香庵にて 2013.1.16〜1.27 

 http://echo-ann.jp/schedule.html 



後藤正治著『奇蹟の画家』講談社文庫(571円+税)になりました。09年12月10日、当日記で紹介ずみ。

(平野)