週刊奥の院 11.25

地元本
■ 神戸新聞経済部・編 『ひょうごのロングセラー 115』 神戸新聞総合出版センター 1500円+税 
 こてっちゃん、ポールウィンナー、イカナゴくぎ煮、とんかつソース、ばらソース、うどんスープ、ミニクロワッサン、バウムクーヘン、ゴーフル、回転焼、鶯ボール、豚まんに揖保の糸……食べ物だけではなくて、海員制服、デニムバック、甲子園出場校名タオル、米ぬか石鹸、イボコロリごきぶりホイホイ、ゴム長靴、マンホール、コインロッカー、ハンドマイク……。
 

誰知らぬものない全国ブランドもあれば、わが店外には一歩も出さぬ頑固一徹の“豚まん”もある。耳慣れた著名ブランドの出生地が「ひょうご」と聞けば、神戸ハイカラ、後背に広がるたわわな農、海に湧くピチピチの漁、時をかけて熟成した発酵の旨み、厚い層の匠の技、ハイテク、それら広域経済圏・兵庫ならではの多彩な文化の積み重ねを、人は想うに違いない。「むべなるかな」と。……内橋克人

 生み出された個々のロングセラーの背景には歴史があり、体験がある。たとえば、作業用手袋には戦場で凍傷に苦しみながら逝った戦友たちへの思いがある。生き延びた帰還兵が「手指を守ることは命を守ること」と念じて開発した。元町の焼き菓子は、大空襲、大震災を乗り越えてきた。
「ロングセラーは瑞々しい。模倣でなく人間知の輝きが時代を超える。その歓びを求めて「創る」と「使う」が共鳴するからだ。


■ 山崎佑次 『すかたん』 神戸新聞総合出版センター 1500円+税  1942年、大阪生まれ、神戸育ち。もともとは映画人、岩波映画大島渚プロダクションを経て独立。骨董露天商も。本書は自らの少年時代をモデルにした、「すかたん」君の物語。

……阪神魚崎駅近くの松林の町で、周辺 にはまだ焼け跡が残り、人糞を溜めた肥えたごがあり、トマトやトウモロコシの畑があった。われわれは少年探偵団だった。住吉川を北に南に、国道二号線を東に西に、「ぼっぼっぼくらは少年探偵団!」と吠えながら、ある日は焼け跡に出撃し、クズ鉄を盗み、仕切り場で金に換えイカ焼きを買い喰いした。ある日は白鶴美術館うらの瓦礫のヘルマン屋敷に遠征して大人の男女の抱擁をのぞき見した。カスミ網を仕掛けてツグミやスズメを獲り、浜で小魚を釣っては夕食の足しにと母に差し出した。ときに隣町の小学生と衝突したりした。……

解説、崔洋一

■ 三条杜夫 『夜明けのハンター  文明開化物語』 叢文社 1800円+税 
 書名だけ見ると冒険小説のような。
 主人公はエドワード・ハズレット・ハンター、アイルランドの港町育ち。1865年、22歳の時横浜に来て、貿易商・ギルビーを補佐。67年兵庫開港時に神戸(まだこの地名はない)の地に。ふたりは、まず屠牛場兼食肉販売店を始める。医薬品、機械、雑貨輸入、鉄工所、造船と事業を拡大していく。ハンターはギルビーとは別に大阪に進出して、造船所を経営する。これがのちの日立造船所。大阪の薬種問屋の娘・愛子と結婚(国際結婚第1号)。
 遠いイギリスから東洋のジパングに憧れた青年の実業と夫人との暮らしを縦糸に、彼らと関わる日本人たちを横糸にして、日本近代史を描く。
 ハンターの邸宅であった、洋館「旧ハンター邸」は王子公園に移築保存され、北野町の日本屋敷は「ハンター迎賓館」となっている。
 著者は1947年神戸生まれ、作家。放送の世界でも構成やアナウンサーで活躍
(平野)